最新記事

中国

全人代、中国の中小零細企業の危機あらわに

2021年3月9日(火)13時27分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

もちろん多少の効果を出しはしたが、比較にならないほど発展したのがBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)などの巨大ネット通販企業である。

以下に示す「中国のジニ係数の推移」をご覧いただきたい(拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』のp.340から引用)。

endo20210309123901.jpg

改革開放以来、貧富の格差が埋めようもなく大きくなってきたのは別問題として、ここでは習近平政権になった後の「2012年~2019年」の間のジニ係数の変化に注目してみたい。

今年は中国共産党建党100周年記念なので、この年までに貧困人口を無くすというのが習近平の国家戦略の一つで、たしかに貧困人口は2012年の1.2億人から2019年の551万人にまで減少した。

ところがジニ係数となると、習近平政権に入った2013年から減少し始めたのに、2015年を境に増加し始めている。

この原因に関して中国問題グローバル研究所の中国代表である孫啓明教授と長時間にわたって議論したのだが、さまざまな理由があるものの、最も大きな要因としてBATの一人勝ちにあるという結論に至った。ネット通販などにおいて富を独占しているBAT、特にアリババは、他の小売業の生存空間を潰していき、中小零細企業が銀行からの融資を獲得しようとしてもできず、結局BATの傘下に入るしかなくなっている。巨大企業が居座れば技術革新さえもなくなり、中国経済は破滅に向かうことになる。

だから昨年、中国政府は独占禁止法でBAT、特にアリババに抑制をかけた。

日本ではジャック・マー(馬雲)が習近平を批判するようなことを言ったからとか、中国政府が遂に民間企業にまで介入してきたとか、的外れなことを言っているが、もし仮にジャック・マーが習近平を褒めたたえる言葉を発し続けていたとしても、独占禁止法による処罰を与えなければ中国経済は崩壊するのである。それどころか政府転覆の動きさえ出かねない。

証拠となるデータは揃えにくいが、たとえば《汕頭(スワトウ)大学学報(人文社会科学版)》(2017年第3期)の研究によれば、BATの市場価値の集中度はアメリカのGAFAを遥かに超えて、2017年でこの領域の産業市場の80%をBAT三社だけで占有しているとのことだ。

この危惧が、今般の全人代における政府活動報告に現れたものと解釈することができる。

なお、なぜ習近平が貧困撲滅に邁進しているかに関しては、前掲の拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述した。

(本コラムは中国問題グローバル研究所における論考からの転載である。)

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版予定)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 8
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中