最新記事

中国

香港の民主化「夢」についえるか 中国全人代で選挙見直し提案

2021年3月9日(火)10時03分

英国が香港を1997年に中国に返還して以来、香港の活動家らは完全民主化の実現を目指してきた。しかし今月5日、そうした活動は大打撃を受けた。写真は監視カメラの後ろに掲げられた香港と中国の旗。香港政府の庁舎前で昨年7月撮影(2021年 ロイター/Tyrone Siu)

英国が香港を1997年に中国に返還して以来、香港の活動家らは完全民主化の実現を目指してきた。これは、いつの日にか中国が約束をかなえ、普通選挙を認めるとの信念に基づいていた。

しかし今月5日、そうした活動は大打撃を受けた。中国の全国人民代表大会(全人代)が、中国で最も自由な都市である香港の政治構造を抜本的に変える計画の詳細を明らかにしたのだ。計画は「だれにでも1人1票」との理念に基づく普通選挙の約束を、ほぼなし崩しにすると批判されている。

中国政府の措置は、何か月も前に香港国家安全維持法(国安法)が施行され、反政府活動が徹底的に取り締まられたのに続く動きだ。1年ほど前には、時に暴力的行為も交えた反中民主化デモが何か月もにわたって市内を席巻していた。

民主党の羅健煕主席はロイターに「中国政府が決定しようとしていることを効果的に変えさせるためにわれわれができることはあまりない」と話した。

提案された選挙制度見直しでは、現行70議席の立法会(議会)定数を90議席に増やし、その一部を親中派が多数を占める「選挙委員会」の枠にする。民主派が押さえる可能性が高い議席分はなくすか、減らす。

全人代の王晨・常務委員会副委員長によると、行政長官を選ぶ選挙委員会の定員1200人も拡大する。親中派の「愛国者」が支配する制度をさらに「改善」する狙いという。王氏は記者団に対し、こうした措置は香港基本法(憲法に相当)の一部改正を含み、香港に対する中国の全体的な管轄権を固め、香港に根ざす深い問題を抜本的に解決するものだと述べた。

中国政府が香港にとっての最終的な目標として普通選挙を約束していた根拠が、まさに基本法なのだ。しかし、5日の提案は89年の天安門事件以降、いかなる民主的活動の再燃のリスクの芽も取り除こうとしてきた中国政府の意思のあらわれと言える。

今や、多くの有力民主派活動家が投獄されるか、海外への出国を余儀なくされている。民主党の羅氏の前任だった胡志偉前主席もそうだ。胡氏は「国家政権転覆共謀罪」で起訴され、保釈を退けられたばかりの数十人の1人だ。民主派は今や、活動を維持するために草の根のネットワークをなんとか活用しようとしている。

羅氏は「香港の政治システムへの信認は薄れつつある。異なる意見を認めずに社会平和を目指そうというなら良い兆候ではない」と語った。

前進ではなく後退

別のベテラン民主派活動家は、2012年に就任した習近平国家主席が香港の完全民主化への軌道をねじ曲げ、中国の指導者だった故鄧小平氏による、しばしば引き合いに出される香港自治の約束をほごにしようとしていると批判する。

別の関係者は「大きな悲劇だ」と指摘。中国政府が前進するのでなく後退しており、「われわれを(香港が抑圧されていた)暗い時代に引き戻そうとしている」と話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中