最新記事

バイデン

バイデンの1.9兆ドル経済対策「実際に必要な規模の3倍以上」

BIDEN’S STIMULUS TRADE-OFFS

2021年3月8日(月)17時30分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)
バイデン米大統領

バイデンの経済対策は良薬? 劇薬?(2月22日) JONATHAN ERNST-REUTERS

<元米財務長官の経済学者サマーズが「インフレを招く」とバイデン政権を批判。一方、クルーグマンは規模を縮小すれば深刻な結果をもたらすと反論。MMT論争には発展しなかったが、サマーズの主張は妥当なのか>

パンデミックから米経済を回復させるため、バイデン米大統領が提案した1兆9000億ドルの経済対策について、民主党支持の有力者の中に疑問を投げ掛ける人物がいる。クリントン政権で財務長官を務めたローレンス・サマーズだ。

サマーズは景気刺激策の否定派ではない。2008年の金融危機後、オバマ政権の国家経済会議トップに任命されたサマーズは、09年に景気刺激策として成立したアメリカ再生再投資法の策定に携わった。

しかしサマーズは、今回の経済対策が行き過ぎだと考えている。2009年には現実のGDPと潜在GDPの差が月約800億ドルまで拡大していたが、昨年は横ばいになり、現在は縮小しつつある。米議会予算局によると、新たな刺激策なしでもその差は今年初めの約500億ドルから年末には200億ドルにまで下がるはずだという。

それゆえサマーズは、バイデンの経済対策が、実際に必要な規模の3倍以上だと主張している。さらに現在の政策論議はインフレ率上昇の可能性を含め、この経済対策が引き起こすリスクの大きさを「十分に考慮して」おらず、リスクが発生すればバイデンのより広範な経済計画の実行を妨げるだろうと懸念する。

反論はある。2月12日に米プリンストン大学で行われた経済学者ポール・クルーグマンとサマーズのオンライン討論会で、クルーグマンはインフレ予測の不確実性を強調。バイデンの経済対策を縮小することは、新型コロナに直撃されているアメリカ国民に深刻な結果をもたらすと警告した。

それでもサマーズの主張はおおむね妥当だが、弱点はある。米経済が直面するのは需要不足とサマーズは考えるが、状況はより複雑だ。レストランや航空会社はコロナで打撃を受けているが、それは消費者がサービスを求めていないからではなく、サービスを受けることで安全が脅かされる、あるいはサービスが禁止されているからだ。

つまり、バイデン政権が景気回復を望むなら、取引を安全にする必要がある。それには経済対策で単純に需要を増やすより多くのコストと長い時間が必要になる。

バイデンが提案した1人当たり1400ドルの現金給付の現実への影響も、サマーズが考えるより複雑だ(インフレの原因となるとサマーズは考えている)。いつ終わるか分からないコロナ禍のさなかで、1回限りの政府支払いを受け取っても、人々は恒久的な賃上げのように自由には使わない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

焦点:人民銀の債券取引、政策手段として機能発揮に長

ビジネス

国債先物は続落で引け、長期金利1.025% 12年

ビジネス

日経平均は反発、米株高を好感 指数寄与度高い銘柄に

ビジネス

午後3時のドルは156円後半で売買交錯、米英休場で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 9

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 10

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中