最新記事

アメリカ政治

「トランプ共和党」はこれからも続くか 弾劾無罪評決で党内にジレンマ

2021年2月18日(木)10時13分

共和党のトランプ前大統領(写真)の弾劾裁判は、2度目も無罪評決を出した。共和党はなおも、「トランプ共和党」の体をなしているようだ。フロリダ州ウエストパームビーチで1月撮影(2021年 ロイター/Carlos Barria)

共和党のトランプ前大統領の弾劾裁判は、2度目も無罪評決を出した。共和党はなおも、「トランプ共和党」の体をなしているようだ。少なくとも今のところはだが。

1月6日の米連邦議会襲撃で支持者を扇動した責任を問われたトランプ氏に対し、共和党上院は50人中43人が無罪票を投じた。有罪賛成は7人だけ。過去5年間でトランプ氏が共和党を自分のイメージするように作り替えてきた結果、同氏が党にいかに強い支配力を持っているかが浮き彫りになった。

トランプ氏は1月20日の退任後、もっぱらフロリダ州の邸宅にこもっているが、支持者層の熱烈な忠誠心を今も思いのままに操る。それによって大半の共和党上院議員はトランプ氏に忠誠を誓わされ、トランプ氏の怒りを買うことを恐れる状態を強いられている。

国政選挙を左右する「毒薬」

しかし、トランプ氏には2度も弾劾裁判が開かれたのだ。昨年に敗北した大統領選挙を巡って不正選挙だったと何か月も虚偽の主張を続け、支持者らによる議会襲撃では5人もの死者を出した。こうなった以上、トランプ氏は国政選挙の趨勢をしばしば左右する多くの激戦州では今後も「毒薬」ということにもなる。

こうした事情から、共和党陣営は2022年の中間選挙で連邦議会の多数派奪取を狙う上で、さらにトランプ氏が再出馬するかもしれない24年の大統領選に向けても、不安定な状態に置かれる。

16年大統領選挙の予備選に名乗りを上げたマルコ・ルビオ上院議員の側近だった共和党ストラテジストのアレックス・コナント氏によると、トランプ氏の支持層なしに共和党がすぐさま国政選挙で勝つのは想像しにくい。コナント氏いわく「共和党は本物のジレンマに直面している。トランプ氏がいると勝てないが、同氏なしには勝てないのも明らかだという状況にある」という。

トランプ氏は弾劾裁判後の長期的な政治プランを示してはいないが、同氏はこれまで大統領選再出馬を公に匂わせてきたし、今回の弾劾裁判で有罪に賛成した共和党議員に対しては、次の選挙の予備選で刺客を立てるのを熱心に支援したがっていると伝えられている。

同氏の側近は「再出馬するかは彼次第だが、彼は共和党の方向性に際し、まただれが党のメッセージを真剣に唱導するのかを評価する上で、なお甚大な影響力を持っている」と主張。「これはキングメーカー(実力者)とでも何でも呼べばいい」と語る。

議会襲撃の後でさえ、世論調査でトランプ氏は共和党支持層から強く支持され続けている。事件からわずか数日後のロイター/イプソス調査で、共和党支持層の70%がなおもトランプ氏の大統領としての仕事ぶりを評価すると答えた。その後の調査でも、再出馬が認められるべきだとの回答は同程度ある。

トランプ氏の報復恐れる

ただ、共和党以外では支持はされていない。13日のイプソス最新調査によると、議会襲撃が始まった責任の少なくとも一部はトランプ氏にあるとの回答は、国民全体では71%。弾劾裁判で有罪になるべきだとの回答は50%あった。有罪反対は38%、「分からない」は12%だった。

弾劾裁判の弁護団は、トランプ氏が既に退任しているため大統領時代の行為について弾劾裁判にかけるは憲法違反であり、襲撃に先立つ同氏の発言は憲法の言論の自由で守られるとも主張。ただし、7人の共和党議員を含む上院の多数は、弁護団のこの見解に反対したことになる。

民主党側は、共和党議員の多くはトランプ氏支持者からの報復を恐れ、良心に従って有罪に投票するのを怖がったと主張する。リチャード・ブルーメンソル民主党上院議員は「非公開投票だったなら、評決は有罪だっただろう」と話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中