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ロヒンギャ

ロヒンギャをめぐる「歴史的和解」が成立。スーチーも奨励した融和策は難民を救うか

2021年1月18日(月)21時00分
前川祐補(本誌記者)

この宣言づくりに携わってきた日本在住のロヒンギャ難民であるゾーミントゥットは、「ラカイン州では多くのロヒンギャが殺され迫害されたが、非ロヒンギャのラカイン人も報復攻撃を受けるなどして治安の悪化が進んでいた」と言う。「経済事情も大幅に悪化し、人々の生活が立ち行かなくなっていた」

今回の動きは草の根的な平和活動から始まり、政党などからは独立したグループによって進められてきた。宣言文書も法的な拘束力を持たないが、話は既に政権レベルに達している。

非ロヒンギャ側の代表として今回の宣言に署名し、ラカイン州の有力政治家と強いパイプを持つ活動家のニニルウィンは2年前の2018年、水面下でロヒンギャの指導者たちと接触した。その後、同州で各世代の住民らと和平合意案を練り始め、「特に未来を生きる若者からの進歩的なアイデア」を基に草稿を作成。翌年3月には「アウンサンスーチー国家顧問に説明する機会を得た」と言う。

「(スーチーからは)『奨励する内容』と言われた」と言い、既に宣言内容の具現化に向けてラカイン州議会の議長やアウンサンスーチーの側近らとともに協議を重ねている。具体的には、ラカイン州における「国家的和解・和平・開発コンソーシアム(Arakan National Reconciliation, Peace, and Development Consortium =ANRPDC)」という、利害関係者のプラットフォームづくりを目指していると言う。

これまでロヒンギャの存在や呼称すら認めてこなかったミャンマー政府の指導部が、態度を一変させたかのような反応を示すのはなぜか。背景にはやはり、不安定化するラカイン州の事情がある。

この地域では、かねて石油利権をめぐる中央政府への不満が募っており、これ以上の経済苦境と社会不安が続けば大規模な反政府運動が起きるとの懸念は長らく指摘されてきた。これまではロヒンギャ問題に住民の目を向けさせることで内政への反発をかわしていたミャンマー政府だったが、ロヒンギャを追い出したことで隠れていた問題が表面化したとも言える。

一方で宣言の最大の目的の1つである、国外へ逃れたロヒンギャ難民の帰還はどのように進むのか。

「これまで国際機関などにロヒンギャの安全な帰還を訴えても、その前提として地元社会の安定が不可欠と言われ話が進まなかった」と、ゾーミントゥットは言う。実際、国際機関は帰還後の安全が保障されなければ動けない。「今回の宣言で問題が解消に向かえば、国際社会も難民の安全な帰還に向け積極的に行動してくれると期待している」

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