最新記事

米中関係

バイデンのアジア重視を示したキャンベル元国務次官補起用

Biden Makes His First Bold Move on Asia

2021年1月14日(木)18時03分
マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所アジア担当上級副所長、ジョージタウン大学教授)

オバマ政権で国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めた時期には、いわゆる「アジア回帰政策」を推進。この政策については、ヨーロッパと中東を後回しにするような印象を与えるとか、中国を挑発する危険性があるといった批判もあったが、その背後にあるパワーバランス戦略は妥当であり、トランプ政権の「自由で開かれたインド太平洋戦略」の土台ともなった。キャンベルのアジア重視戦略は、政権移行チームと民主・共和両党の議会幹部との合意の中核を成している。

第2に、キャンベルが就くポストが新設されたことで、アメリカ外交におけるアジア戦略の重要性はかつてなく高まる。筆者が2001年にNSCに入ったときには、ヨーロッパ部門はアジア部門の3倍の規模だった。2005年の退任時には、ほぼ同じ規模になり、いずれも上級ディレクター1人と、ほぼ5人のディレクターが指揮していた。

バイデン政権ではアジア部門に今のヨーロッパ部門の3倍の3人か4人の上級ディレクターが置かれ、NSC内でも特に大きな権限を持つ部門となる見込みだ。

こうした大幅な組織再編があると別の部署にしわ寄せが行くものだが、この場合はヨーロッパ部門も強化される可能性がある。NATO加盟国、それに多くのEU加盟国はバイデン政権と協力して中国を牽制したいと考えているからだ。同盟国の連携による対中包囲網の構築は、ドイツやフランスにまで噛み付いたトランプが、あっさり捨て去った戦略的カードだ。

超党派の影響力

第3に、キャンベル起用は、中国およびアジア戦略で超党派の合意を重視するという次期政権の意思表示ともなる。共和党全国委員会は2020年の選挙で自党の候補者たちにバイデンの対中政策を批判するよう指示したが、実のところ米政界では対中政策をめぐり超党派の幅広い合意ができている。

戦略国際問題研究所(CSIS)が2020年8月に実施した調査によると、同盟国との連携強化、重要な技術の保護、人権と民主主義で中国に強い圧力をかけること──この3点で民主・共和両党の議員や外交問題の専門家の考えは概ね一致している。

キャンベル自身、アジア政策における超党派の合意づくりに尽力してきた。筆者はジョージ・W・ブッシュ政権時代にNSC入りする前に、国防総省でキャンベルの下で働いたことがあり、彼とは長い付き合いだ。2019年12月までトラプ政権のアジア担当国防次官補として辣腕を振るったラダル・シュライバーもクリントン政権時代にキャンベルの下で働き始めた。

故ジョン・マケインはじめ、共和党の議員たちも中国、日本、台湾などアジアの国々についてはたびたびキャンベルに助言を求めてきた。マケインがシンガポール訪問を前に私たちのブリーフィングを受けた際、キャンベルは台北に立ち寄ってほしいと強く求めた。台湾への締め付けを強化する中国を牽制するためだ。既に訪問日程は決まっていたが、マケインはスタッフに変更を指示し、キャンベルの勧めに従った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ

ビジネス

日経平均は反発、円安を好感 半導体株高も支え

ビジネス

村田製作所、マイクロ一次電池事業をマクセルに80億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中