最新記事

女性問題

韓国1月1日から堕胎罪が無効に 女性と医師のみ罪に問われる社会は変わるか

2021年1月10日(日)12時30分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

経験少ない医師に妊娠中絶手術の教育が必要に

今回、堕胎罪が無効になる1月1日を前に、廃止を求めていた女性たちは、コロナウイルスの感染対策で集会が禁止されているため、メッセンジャーアプリのカカオトークのグループトークにて、オンラインでのカウントダウンを行ったという。

また、堕胎罪廃止を支持してきた革新系新聞ハンギョレでは、「堕胎罪廃止」と銘打った特設ウェブページ(http://www.hani.co.kr/arti/delete)を開設し応援してきた。特設ページには、堕胎罪に関する年表や、デモ活動の写真、さらには効力失効までの時間を表示するデジタル時計でカウントダウンを行うほどの熱の入れようだった。

もちろん、人工妊娠中絶はセンシティブで簡単なことではないため、様ざまな課題は残されている。

まず、一番大きな問題は、医師だ。妊娠中断を犯罪で規定した1953年以後、医学大教育課程で人工妊娠中絶施術関連の教育が徐じょに減らされていった。

もしも今後、中絶手術を望む女性が増えたとしても、失敗などは許されない分野だからこそ、今後は中絶手術の教育や実習を増やしていく必要がある。

さらに、先日行われた国会公聴会では「妊娠22週までの人工妊娠中絶を認めた場合、取り出した胎児は生きている可能性もある。その場合医療陣が胎児を殺さなくてはならず、その苦しみも考慮すべきだ」という医療現場からの意見も重要視された。

これに関しては、先日大韓産婦人科学会と大韓産婦人科医者会が「妊娠22週以降の人工妊娠中絶は行わない」という意思を記載した共同声明を公式発表するなど、医療の現場でも混乱が続いている。

カトリック司教は100万人の「廃止反対」署名

そして、堕胎罪については倫理問題も大きくかかわっている。堕胎罪廃止についてはカトリック系教会から強い反対意見が出ている。カトリック司教会議議長であるキム・フィジュン大主教と数名が、2019年3月ソウル憲法裁判所に堕胎罪廃止反対の100万人余りの署名と嘆願書を提出したことは有名だ。また、先月21日韓国キリスト教公共政策協議会は「国会は堕胎罪関連法を改正すべきだ」という主張の声明文を出した。

さらに韓国国会の国民同意請願の掲示板に投稿された「堕胎罪廃止反対」の請願は、10万人の同意を得て所管の国会保健福祉委員会と法制司法委員会に回付されている。

もちろん、すべての妊娠が望まれたもので、すべての赤ちゃんが幸せに包まれながら生まれてくることが理想だろう。しかし、そうでない妊娠も確実に存在する。

今回の韓国の例のように廃止へ一歩近づいた国もあれば、昨年10月にはポーランドで実質的なすべての人工妊娠中絶(胎児の異常なども含む)が違法という裁判判決を出した国もある。また、2019年にはアメリカのアラバマ州やミズーリ州などで中絶禁止法が可決されたことに反対し、SNS上で自分の中絶体験を語る#YouKnowMe運動が起きるなど、中絶をめぐる議論は世界各国で起きている。

さて、日本でも刑法第2編第29章に「堕胎の罪(刑法212〜216条)」がしっかりと記載されている。今回韓国で起きた事例は、日本の女性たちにも他人事ではない。

人工妊娠中絶に関しては、宗教や倫理問題が関わるので複雑だ。賛否両論あるのは当たり前である。だからこそ、今回の韓国の例をきっかけに「堕胎の権利」と「女性そして医師にのみ罪が課せられる現実」について一度考える必要がある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中