最新記事

女性問題

韓国1月1日から堕胎罪が無効に 女性と医師のみ罪に問われる社会は変わるか

2021年1月10日(日)12時30分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

torwai - iStockphoto *写真はイメージです

<望まない形で妊娠しても、出産しないという選択が許されない国は多い>

今年1月1日、韓国で堕胎罪が無効化された。しかし、効力失効となった現在もこのことについて韓国社会では賛否両論が飛び交っている。

韓国の堕胎罪とは、韓国刑法269条のことである。そこには、「婦女が薬物やその他方法で中絶する時、1年以下の懲役または200万ウォン以下の罰金に処せられる」と書かれている。また、270条では「医者、漢方医、助産師、薬剤師または薬種商が婦女の嘱託または承諾を受けて中絶させた時には2年以下の懲役に処せられる」と書かれているが、こちらも今回一緒に効力を失った。

もちろん、これまでも人工妊娠中絶が認められるケースはあった。韓国母子保健法第14条により、本人または配偶者が伝染性疾患、遺伝学的精神障害や身体疾患がある場合、強姦(準強姦含む)での妊娠、法律上婚姻することができない血族または姻戚間での妊娠、妊娠の持続が保健医学的理由で母体の健康を深刻に害する憂慮がある場合を理由に、妊娠した本人と配偶者(事実婚含む)合意のうえ、人工妊娠中絶施術は認められてきた。しかし、裏を返せばそれ以外の人工妊娠中絶は不法とみなされてきたのだ。

廃止ではなく「保留状態」による無効化

今回の269〜270条の無効化により、妊娠した女性が人工妊娠中絶を決断したとき、本人及び医療関係者が処罰されなくなった。しかし効力を失ったとはいえ、廃止されたわけではない。というのも、効力を失ったのは憲法裁判所が2019年4月11日堕胎罪について憲法違反の決定を下し、2020年12月31日を法改正時限と決めたのにかかわらず、政府と国会は年末まで改正法を立法化できなかったのだ。

現在、韓国国会に発議された堕胎罪をめぐる法案は政府案を含んで6件ある。このうち半数の3件は堕胎罪完全廃止を訴えている。政府案は妊娠14週まで中絶許容案。その他2件は、妊娠10週未満まで中絶可能としている。堕胎罪は効力を失い罪には問われなくなったが、現状はあくまで「保留状態」だ。しかし廃止に向けてかなり前進したといえる。

これまで、韓国の女性団体を中心とした人びとは、この堕胎罪刑法廃止に向けて長い間戦ってきた。とくに世間の注目を集めたのは2016年9月、違法な中絶手術を行ったとして、保健福祉省が施術した医師に対する処罰強化を発表したことで、翌10月には女性たちがソウルの中心部チョンロで「검은 시위(黒いデモ)」と称した抗議行動を行ったことだ。

黒いデモと呼ばれるようになったのは、抗議した韓国女性たちが、全員黒い服に身を包んで行進したからだ。これは同じく2016年ポーランドで政府の全面的な堕胎禁止法案提出に反対した女性たちが、生殖に関する自己決定権をはく奪されたことを哀悼して黒い服を着用して抗議集会を開いたことからきているという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中