最新記事

水リスク

水の先物取引が米国で開始される

2021年1月8日(金)16時45分
松岡由希子

気候変動に伴う気温上昇や干ばつなどにより、世界的に水リスクが高まっている...... REUTERS/Jose Luis Gonzalez

<去年12月、シカゴの先物取引所に世界で初となる水先物が上場した。水資源管理に役立つと期待されているいっぽう、水への適切なパブリックアクセスへの懸念も示されている......>

米CMEグループが運営するシカゴの先物取引所「シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)」は、2020年12月7日、米国の新興企業向け株式市場「ナスダック」との提携により、世界で初となる水先物を上場した。

水先物は、水価格指数「ナスダック・ベルス・カリフォルニア・ウォーター(NQH2O)」に基づいて取引される。

この指数は、米カリフォルニア州の地表水および地下水盆4カ所の水利権の賃借や売買の取引価格をもとに、エーカー・フィート(1エーカーの面積を深さ1フィートで覆うのに必要な体積:約1233キロリットル)を1単位として米ドル建てで定められるものだ。2021年1月7日時点の指数は499.83ドル(約5万1920円)となっている。

農業や製造業から、水資源管理に役立つと期待されているが......

気候変動に伴う気温上昇や干ばつなどにより、世界的に水リスクが高まっている。たとえば、2020年8月に大規模な森林火災が発生したカリフォルニア州では水不足が深刻な課題となっている。

水の先物取引は、水資源の需給バランスを効率的に調整でき、とりわけ水の需要量が大きい農業や製造業を中心に、水資源管理に役立つと期待されている。将来に備えて有利な価格で取引しておけば、不測の事態が起こっても、水資源へのアクセスを確保できるわけだ。

その一方で、水という基本的に不可欠な資源を市場で取引することについては、国連の人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、水の先物市場への懸念も示されている。市場取引によって、水への適切なパブリックアクセスや利用可能性の確保よりも利益が優先されるおそれもある。

「水のコストは上昇し続けるだろう」

米国のシンクタンク「インスティチュート・フォー・ポリシースタディーズ(IPS)」のバサヴ・セン氏は、米紙ロサンゼルス・タイムズの取材に対して「水の先物取引は、水不足という課題への対処法にはなりうるが、気候変動や工業型農業における水の大量消費など、水不足を引き起こしている根本的な原因の解決にはつながらない」とし、「水の先物取引によるリスクヘッジは一時しのぎにすぎず、水不足の原因を解決しない限り、水のコストは上昇し続けるだろう」と指摘している。

California Water Futures Begin Trading Amid Fear of Scarcity

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米リバースレポの利用枯渇、FRBの量的引き締めは先

ワールド

米連邦緊急事態管理局、職員の新規採用凍結を年末まで

ビジネス

EU、アドテック巡りグーグルに少額の制裁金科す見込

ビジネス

午前の日経平均は大幅続落し4万2000円割れ、半導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマンスも変える「頸部トレーニング」の真実とは?
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 6
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    就寝中に体の上を這い回る「危険生物」に気付いた女…
  • 9
    シャーロット王女とルイ王子の「きょうだい愛」の瞬…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中