最新記事

事件

コロナ禍で世界的に詐欺事件が急増 架空請求からロマンス詐欺まで

2020年12月16日(水)10時18分

英銀大手のスタンダード・チャータードで30年にわたって詐欺リスクの分析を担当してきたラジェンドラン・ラジ氏は、勤務時間外に当局から出し抜けに通報を受けるのは慣れっこだった。ロンドンの金融街で11月撮影(2020年 ロイター/Simon Dawson)

英銀大手のスタンダード・チャータードで30年にわたって詐欺リスクの分析を担当してきたラジェンドラン・ラジ氏は、勤務時間外に当局から出し抜けに通報を受けるのは慣れっこだった。だが、今年3月のある土曜日の電話では、新型コロナウイルスに便乗して現金をだまし取ろうとする新手の詐欺に対処しなければならない時代を迎えたことを知った。

事の発端は、新型コロナ用の個人防護具の需要が劇的に増えていた中で、フランスの医薬品メーカーがシンガポールの警察に、同国のサプライヤーから個人防護具1000万ドル相当が届かないと通報したことだった。

ラジ氏が率いるチームは、在シンガポールのある銀行での決済を糸口に計7行の取引を追跡。複数のデビットカード決済を調べた結果、代金を詐取したとみられる男が香港にいることを突き止め、男の逮捕につなげた。

ロイターが銀行関係者や銀行のアドバイザーなどに取材したところ、こうしたコロナ関連詐欺の増加により、銀行は不正取引防止や探知のための人員を拡充。地元や世界各地の司法当局と、より緊密な連絡態勢をつくり、一般の人への注意呼び掛けにも乗り出している。

ラジ氏は「コロナ前まで私が扱っていた詐欺事件は、年間で20件か30件というところだった。それが今年は、3月から今に至るまでに数百件になっている」と語った。

BAEシステムズ・アプライド・インテリジェンスの調査によると、米国でも今年に入って保険金詐欺が倍増した。新型コロナ感染対策の各種規制措置で生じた損害を巡り、これをカバーする保険金が狙われており、業界のコストは1000億ドルに上っている。

同社の詐欺対策担当グローバル・ディレクター、デニス・トーミー氏も「架空請求」犯罪が激増していると話す。ハイヤー会社が自動車の消毒費用を水増しすることから、旅行会社が1件の予約キャンセルに対していくつもの保険会社に保険金支払いを請求することまで、手口は多岐にわたる。トーミー氏は、犯罪者側の動機が強く、一方で行為を防ぐ「壁」が低い以上、詐欺発生の条件は完璧にそろっていると警鐘を鳴らす。

ソーシャル・エンジニアリング

新型コロナの影響で世界中の人が家に閉じ込められたことも、新たな詐欺の機会を生み出している。

バークレイズのデータを見ると、英国では今年1─10月に、当局者などを装って銀行手数料や商品代金の未払いや罰金などを電話、もしくは電子メールで追及する「成り済まし詐欺」が20%余り増えたことが分かる。

心の隙や弱みにつけ込み、偽の信頼関係をつくった上で、現金やパスワードなどの個人情報を盗もうとする、こうした「ソーシャル・エンジニアリング」行為は、これまでは人々が属するさまざまな互助的ネットワークが、実現を阻止する役目を果たしてきた。しかし、多くの人が孤立状態に置かれたことで、犯罪に巻き込まれた。

トーミー氏によると米国でのインターネット不正侵入事案の3分の1でソーシャル・エンジニアリングが利用された。電子メールを通じた詐欺被害額は12億ドルを超える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

トランプ氏、ウクライナ兵器提供表明 50日以内の和

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中