最新記事

東南アジア

フィリピン滞在のサウジアラビア人男性逮捕 中東ISメンバーの入国を支援

2020年12月21日(月)17時56分
大塚智彦

ドゥテルテ政権、テロ組織掃討を強化

ドゥテルテ大統領は2016年の大統領就任時から「フィリピン共産党とその軍事部門である新人民軍(NPA)をはじめとする反政府組織、テロ組織の壊滅を目指す」との方針を示しており、反政府勢力に対する国軍や国家警察などの治安当局による攻勢、掃討・壊滅作戦が現在も続いている。

フィリピンではNPAをはじめとしてイスラム系テロ組織である「アブ・サヤフ」やBIFFなどが依然として活動を続け、自爆テロや治安部隊との銃撃戦が繰り返されている。

ただ、治安当局による掃討作戦も効果をあげているようで各組織のメンバー摘発、射殺、投降が最近続いている。

12月13日、国軍は2020年に実施した「アブ・サヤフ」掃討作戦による銃撃戦などでこれまでに幹部を含むメンバーなど68人を殺害し、128人が投降したことを明らかにした。さらに「アブ・サヤフ」の拠点などから銃器156丁、手製爆弾10個などを押収したことも明らかにしている。

またNPAなどの共産勢力に対する作戦では2020年1月から12月までに201人を殺害し、7000人以上のメンバー、支援者が投降したとして、ドゥテルテ政権が進める国内治安対策が成果をあげていることを強調した。

こうした状況を受けて国軍のギルバート・イタリア・ガパイ参謀長は、ドゥテルテ大統領が掲げている大統領としての任期である2022年までに「共産勢力を一掃する」という公約が「実現に近づいている」と表明し、今後も作戦を継続することを強調した。

一方でBIFFに関しては、組織は弱体化していると伝えられるものの、12月3日にミンダナオ島中部マギンダナオ州ダトゥピアンにある軍施設を約50人のBIFFメンバーが襲撃、銃撃戦となった。駐車中の警察車両が放火されたものの幸いに犠牲者が出る前にBIFFが撤退したという事件がおきるなど依然として活動を続けている。

こうしたことからも今回のサウジアラビア人、アルシュヒバニ容疑者の逮捕は関係が深いとされるBIFFなどへの集中的な捜査の成果の一環とみられ、今後アルシュヒバニ容疑者への取り調べを通じて中東とフィリピンを結ぶ密航ルートの解明・摘発、さらにBIFFの壊滅作戦に結びつく情報が得られるものと治安当局は期待している。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中