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米朝関係

チーム・バイデンは金正恩の「最大の弱み」を知っている

2020年11月13日(金)14時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

バイデンはオバマ政権時代、人権問題で中国に釘を刺していた KCNA/REUTERS

<トランプ大統領との対話では鷹揚に振舞うことができた金正恩だが、バイデン政権ではそうはいかないかもしれない>

「オバマ大統領と私は、人権の改善が国家発展の力になると信じている」

米大統領選で勝利したジョー・バイデン氏はオバマ前政権の副大統領だった2011年8月21日、中国・四川省成都市の四川大学で行った講演で、このように述べた。この時、ホスト役としてバイデン氏と同行したのは、次期最高指導者への就任が確実視されていた習近平国家副主席だった。

バイデン氏はさらに、米中関係強化の重要性を訴える一方、両国の最大の相違点は「人権」にあるとし、「中国は人権の改善を通じ、さらに自由を手に入れ社会を進歩させるよう望む」と発言。習近平氏の目の前で「中国は学生や市民と政府の交流を大切にするべきだ」とも語り、民主活動家に対する中国当局の弾圧などを暗に批判したという。

中国に対してこのように要求したバイデン氏が今後、北朝鮮の人権問題からまったく目を背けるとは思えない。大口径の高射銃を使った公開処刑の状況は、衛星画像でも捉えられており、単なる噂や疑いの水準にとどまらないのだからなおさらだ。

参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」...残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

オバマ前政権で北朝鮮の人権侵害に対する批判の急先鋒だったのは、サマンサ・パワー国連大使だった。国連でパワー氏らが北朝鮮を鋭く追及した結果、金正恩氏は「人道に対する罪」を問われかねない立場に追いやられ、北朝鮮はほとんど「半狂乱」とも言えるほどに激しく反発した。もしかしたらパワー氏は、北朝鮮の独裁者を史上最も苦しめた女性と言えるかもしれない。

そして、現在はハーバード大学のシンクタンクであるベルファー・センターに籍を置くパワー氏は、バイデン陣営の外交・安全保障分野のアドバイザーを務めている。

同じくベルファー・センターに在籍し、クリントン政権下で北朝鮮政策調整官を務めたウェンディ・シャーマン元国務次官も、バイデン陣営の外交安保アドバイザーだ。北朝鮮はかつて、シャーマン氏のことを「外交官の仮面をかぶった悪魔」と呼んだことがある。

国務省を退任し、大統領選に出馬していたヒラリー・クリントン元国務長官のブレーンとなったシャーマン氏は2016年5月、米ワシントンDCで行われた朝鮮半島関連セミナーの昼食会で発言し、「北朝鮮で内部崩壊またはクーデターが起こる可能性を想定するのは不可欠であり、韓国と米国、中国、日本が速やかに協議を行うべきだ」と述べている。

筆者は北朝鮮でクーデターが起こる可能性については懐疑的だが、いずれにせよこの発言は、シャーマン氏が金正恩体制の存続に肯定的でない考えを持っていることを示唆しているように思える。そしてその背景にはやはり、オバマ政権が問題視した北朝鮮の人権侵害があるのではないか。

果たして、パワー氏やシャーマン氏がバイデン次期政権でどれだけ重要な地位を占めることになるかはわからない。しかし両氏は、対北朝鮮外交で経験を積んだ専門家である。そして、人権問題で金正恩氏の責任を追及されるのが、北朝鮮にとって最も耐え難いことであるのを知っている。

トランプ大統領を相手にした対話では、核兵器を持つ独裁者として鷹揚に振舞うことのできた金正恩氏だが、今後はそうはいかないかもしれない。

参考記事:女性芸能人らを「失禁」させた金正恩の残酷ショー

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ--中朝国境滞在記--』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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