最新記事

教育

急増する小学校での暴力の背景にある、幼児期の「母親との距離」

2020年11月12日(木)15時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

近年、小1児童の学校生活への不適応が問題になっている。東京都教育委員会の実態調査の定義によると、「入学後の落ち着かない状態がいつまでも解消されず、教師の話を聞かない、指示通りに行動しない、勝手に授業中に教室の中を立ち歩いたり教室から出て行ったりするなど、授業規律が成立しない状態へと拡大し、こうした状態が数カ月にわたって継続する状態」で、関係者の間では「小1プロブレム」として知られている。小学生、とりわけ低学年の暴力増加は、この問題と関連しているとみていい。

小学校1年生は幼児期の生活の影響を留めているが、就学前の過ごし方に変化が起きている可能性がある。ベネッセ教育総合研究所は、就学前の乳幼児の遊び相手を5年間隔で調査している。9つの選択肢から該当するものを全て選んでもらう形式だが、「母親」と「友だち」の選択率に大きな変化がみられる<図2>。

data201112-chart02.png

この20年間で「友だち」が減り、「母親」が増えている。1995年では同じくらいの選択率だったが、その後どんどん乖離している。幼児は外で友達と遊ばなくなり、母親の庇護下に置かれるようになっている。子どもを狙った犯罪が多発しているので、子を外に出さない親が増えている、あるいは早期から塾や習い事に通う子が増えているためかもしれない。

小学校に上がるとタイトな集団生活が始まるが、同輩集団(peer group)で群れた経験に乏しい子どもがいきなりそこに放り込まれたら、諸々の不適応が起きても不思議ではない。幼児は庇護されるべき存在だが、大人が適度に見守りつつ、彼らだけの世界も尊重されなければならない。対等な仲間集団で欲求をぶつけ合い、それを調整する術を学ぶことで、他者との社会生活が営める社会的存在としての自我が育つ。

保育所・幼稚園と小学校の落差を緩やかにする必要もある。勉強のスタイルをとっても、前者では遊びを通した総合的な教育だが、後者では机に座って教科書を開く教科教育が中心となる。6歳の幼児が、そうした大きな変化についていくのはなかなか難しい。小学校低学年では、生活科を要とした「スタートカリキュラム」を組むことが推奨されている(新学習指導要領)。

年少児童の暴力増加は、幼児期の生活、さらには幼保と小学校の接続の在り方の問題と絡めて議論しなければならないだろう。

<資料:文科省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』
    ベネッセ教育総合研究所『第5回・幼児の生活アンケート』(2016年)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中