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アメリカ大統領選挙でのトランプ敗北と消え去ることのない「トランプ主義」

2020年11月12日(木)11時45分

政治アナリストのストゥ・ローセンバーグ氏は、今回の選挙でトランプ氏のしぶとさが目立ったと指摘。トランプ氏は、労働者階級中心の白人層という自身の基盤から多くの支持者を掘り起こしただけでなく、民主党の結束に不可欠なヒスパニック系有権者にも食い込んだと話す。

選挙は民主党員や反トランプの共和党員が望んだような「トランプ氏の完敗」にほど遠く、「トランプ氏が新型コロナや経済への対応に失敗したにもかかわらず、いくつかの面で結果は4年前の選挙とさほど変わらなかった」と述べた。

民主党ストラテジストのカレン・フィンネー氏は、選挙が接戦となったという現実を前に、民主党員はトランプ氏がなぜ消え去らないのか、自問自答することになるだろうと述べた。トランプ氏は特定の層だけに響く暗号のようなメッセージを発する「犬笛」政治を駆使し、人種的、文化的な緊張をあおることに成功し続けたと説明。選挙が接戦となったことで、「われわれがなおも非常に分断されている」ことが明らかになったという。

白人以外からの支持率も上昇

トランプ氏は1期目の4年間に気候変動問題、外交政策から新型コロナ流行までさまざまな問題で専門家の意見に耳を貸さず、選挙戦でもより中道的な路線に軌道修正すべきだとの進言を無視。分断をあおり、自分の支持基盤受けする戦略を貫いた。

選挙戦の暫定集計から米国の党派による分断の深さが浮き彫りになった。新型コロナの大流行、経済の急激な悪化、黒人死事件を巡る社会不安の拡大にもかかわらず、出口調査では支持政党の垣根を超える投票がほとんどなかったことが分かった。

エジソン・リサーチの出口調査によると、トランプ氏は白人有権者の支持率が約55%で、前回選挙からはやや低下したものの過半数を維持した。トランプ氏支持層の中核を成す白人・非大卒有権者の支持率についてはトランプ氏がバイデン氏に20%ポイント以上の差をつけた。ただ、支持率自体は前回から4%ポイント程度下がった。

バイデン氏支持の活動を展開しているリンカーン・プロジェクトの創設者、マイク・マドリッド氏は、トランプ主義が共和党の中心部に居座り続けると考えている。「トランプ主義、大衆迎合的ナショナリズム、白人の不満を代表するような政治が続くだろう」と述べ、当選した共和党議員の大半は、他のいかなるものにも意欲を持っていないとした。

それでも調査によると、トランプ氏はアフリカ系、ヒスパニック系、アジア系の米国人の支持率も前回から4%ポイント程度上昇した。ヒスパニック系の高齢者は約39%がトランプ氏に投票し、前回から14%ポイント上昇。黒人有権者も30歳から44歳の年齢層は19%がトランプ氏を支持し、前回から支持率が12%ポイント上がった。一方、白人の高齢な有権者ではトランプ氏の支持率が2%ポイント程度下がった。

フロリダ州では中南米系の有権者でトランプ氏の支持率が前回から12%ポイント上昇し、トランプ氏が激戦の同州を制する上で重要な役割を果たした。

こうした支持率上昇は、トランプ氏に対して人種差別的な物言いや厳しい移民政策を行っているという批判を続けてきた政敵を困惑させた。トランプ氏はテキサス州の中南米系市民が多い地域で支持を伸ばし、そうした市民が9割余りを占めるメキシコ国境沿いのヒダルゴ郡で得票数が前回より4万票増えた。

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