最新記事
北朝鮮

3家族が全滅、孤児院も......北朝鮮「封鎖都市」で餓死続出

2020年11月24日(火)14時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

感染防止を名目にした都市封鎖で餓死者が出る事態となっている KCNA-REUTERS

<新型コロナの感染拡大を未然に防ぐためのはずの都市封鎖が人々を餓死に追い込んでいる状況に、住民の間には不信感が広がっている>

北朝鮮当局は先月27日から、中国との国境に面した咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)、鐘城(チョンソン)、穏城(オンソン)に対して、封鎖令を発した。

表向きの理由は「新型コロナウイルスの流入遮断」だが、実際は、国境警備のために派遣された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)暴風軍団の兵士が、普段から自分をいじめていた副分隊長を殺害後に逃走する事件が起きたことがきっかけだ。

コロナ感染が疑われる患者が発生した両江道(リャンガンド)や慈江道(チャガンド)でも封鎖令が発せられているが、その期間は3週間。一方で、咸鏡北道の封鎖令は、事件の容疑者が検挙されていないのか、3週間を過ぎてもまだ続いているようだ。極度のモノ不足に陥り、命を落とす人も出ていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

情報筋によると、会寧と他地域と結ぶ道路が遮断され、物資が入荷しなくなったことで物価が高騰した。秋の収穫期の直後だというのに、困窮する人が続出し、ついに餓死者も発生した。今月12日の時点での餓死者は、4人家族1組と3人家族2組の合わせて10人。いずれも一家全滅だ。

<参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

一方、慈江道の満浦(マンポ)市は先月26から今月14日まで封鎖された。

中国との密輸に関わっていた人を中心に12人が呼吸困難の症状を見せ、市内の病院で死亡したことを受け、金正恩党委員長が下した命令によるものだ。密輸に関わった税関職員、商人10人が逮捕され、安全部(警察署)で取り調べを受けている。彼らに着せられた容疑は国家転覆罪と殺人罪。多くが無期懲役となり、密輸の首謀者は公開処刑されるだろうとのいうのがもっぱらの噂だという。

情報筋が明らかにした、慈江道の非常防疫委員会に報告された集計によると、封鎖期間中にコロナの疑いで隔離施設に収容された人が320人、症状が表れその後に死亡した人は107人に達する。

封鎖期間中、市民はいっさいの外出を禁じられた。当局は市民1人あたり1日300グラム、10日分の食糧を配給したが、3週間をしのぐにはまったく足りない。その結果、孤児を収容する育児院、初等学院では、封鎖による食糧不足で10人が餓死するという痛ましい事件も起きたという。

また封鎖により、長く厳しい冬を乗り越えるために欠かせない薪と石炭、保存食であるキムチの調達ができなかったとあって、死者がさらに増える可能性がある。

すでに市民の間では「餓死した人はもっといるはず」との噂が広まり、感染症の拡大を未然に防ぐための封鎖が、人を餓死に追い込んでいる状況に、もはや国も防疫機関も幹部も信じられないと不信感が広がっているという。

<参考記事:銭湯や民泊で...北朝鮮で「性売買」の低年齢化が深刻

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 4
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 7
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 10
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中