最新記事

仮想通貨

中国、深圳で過去最大規模の「デジタル人民元」実証実験 専門家は評価するも消費者は冷淡

2020年10月21日(水)12時35分

中国広東省深セン市で18日、デジタル人民元の1週間の実証実験が終了した。こうした実験は国内最大級。写真はデジタル人民元の公式アプリ(左)と人民元。16日撮影(2020年 ロイター/Florence Lo)

中国広東省深セン市で18日、デジタル人民元の1週間の実証実験が終了した。こうした実験は国内最大級。専門家は中国人民銀行(中央銀行)が発行する世界初のデジタル通貨実用化へ向けた一歩として、実験を評価した。一方で一部ユーザーからは、アリペイなど既に普及している民間決済アプリの方がいいとの声もあった。

実験は抽選で市民5万人に1人当たり200元(29.75ドル)、総額150万ドル相当のデジタル人民元を「お年玉」のように配布した。デジタルウオレットを専用アプリでダウンロートし、銀行口座いらずで、店舗での買い物がスマートフォンの読み取りを通じて承認される方式。高級品の店から軽食レストラン、スーパーマーケットなどで使用できる態勢が取られた。

暗号資産(仮想通貨)の取引プラットフォームHKbitEXの共同創設者Wang Shibin氏は、デジタル人民元が「理論的な内部実験から実用化へ向けて動いたことを意味する」と述べた。

配布されたデジタル人民元のどれだけが実際に使用されたのかは今のところ明らかにされていない。人民銀は実験結果についてのコメント要請に返答していない。

ANZの中国担当チーフエコノミスト、レイモンド・イェン氏は、デジタル人民元の国内での効果はこれから大きくなると予想。当局が通貨の流通動向を細かく監視できるようになり、マネーロンダリング(資金洗浄)の防止などにも役立つとした。ただ、市民が既存の決済アプリよりもデジタル人民元で買い物をするようになるかどうかは、奨励策や使いたくなる動機付け次第だとの見方も示した。

中国の決済アプリは、アリババ・グループのアリペイと騰訊控股(テンセント)のウィーチャットがシェアで圧倒する。

これまで決済アプリを利用してきた深セン市民の一部は、実証実験に冷ややかだ。人民銀と政府は、デジタル人民元の利点を消費者に納得してもらう努力が必要なようだ。

ある買い物客は「アリペイとウィーチャットはずっと使われてきている。デジタル人民元はこれに似通っているので、もう今からでは実証実験は必要ない」と語り、自分が将来的にデジタル人民元への切り替えを検討するかについては、利便性と安全性をどう感じられるか次第だと述べた。

PwC中国のシニアエコノミスト、G・ビン・チャオ氏は「デジタル人民元の利用促進には利便性などのメリットが特に重要だ」と指摘。中国政府は助成金支給や年金支給口座、国営部門の給与支払いにデジタル人民元を紐付ける可能性があるとも話した。ただデジタル人民元の普及には、銀行などの金融機関が申請やマーケティングや教育に多額の投資をする必要があるとも強調した。

別の買い物客はデジタル人民元の使い勝手が既存の決済アプリほど便利ではなかったとし、デジタル人民元をまた使うつもりはないと語った。「もちろん、また無料配布されれば別だけどね」

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船」船長の意外すぎる末路
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ


ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中