最新記事

東南アジア

インドネシアのパプア人牧師殺害事件、国家人権委員会が独自調査 軍が学校に駐屯など新事実も

2020年10月19日(月)18時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

捜査が難航しているパプア人牧師の射殺事件は、政府の独立機関「国家人権委員会」の調査で真相が明るみになるか? 写真はパプア地方に展開するインドネシア国軍 REUTERS/Antana Foto Agency

<政府の独立機関が捜査をしたことでパプア住民の軍・警察への不信がより鮮明に>

インドネシア東端に位置するパプア州の山間部で9月19日にパプア人牧師が射殺された事件が発生してから1カ月。行き詰っていた真相解明をめぐり新たな調査が動きだした。

これまで射殺犯について軍や警察は、パプア州山間部のインタンジャヤ州で活動する独立派武装組織(治安当局は単に武装犯罪集団と呼称)の犯行と発表。一方、地元住民やキリスト教会関係者は陸軍の兵士による射殺だとして、主張が真っ向から対立。

治安当局による捜査は住民の信頼や協力を得られず真相解明は難しい局面を迎えていた。

さらに政府主導による「特別調査チーム」が編成されて送りこまれたものの、そのチームメンバーの人選についてパプア人権保護団体やNGOなどは「政府側、治安当局者が含まれており著しく公平を欠く」と反発。

「特別調査チーム」の事件現場への受け入れ、調査協力が実質的に拒否される事態となり、「真相解明というより公正な調査結果を期待すること自体ができない状況」とマスコミなどから指摘される事態に陥っていた。


ところがこうした現状をみかねた「国家人権委員会(Komnas HAM)」が独自に調査団を現地に派遣して関係者から精力的に事情聴取などを進めたことが明らかになり、現地パプア人や人権団体からその調査結果に大きな期待が寄せられている。

インドネシアの国家人権委員会は、1993年に大統領によって設立された政府の独立機関で、インドネシア憲法、国連憲章および普遍的な人権宣言に従って、インドネシアにおける人権の保護と執行を強化し、人権を侵害した者の調査、人権被害を受けた者の名誉回復などを目的としている。

一方、こうした動きを受けて政府調査団はあわてて「近く調査結果を明らかにする」としているが、政府調査団と人権委の調査チームの結果が大きく異なる事態も予想されるなど、パプア人牧師殺害事件の真相解明は新たな段階を迎えている。

人権委の精力的調査に地元も協力

事件は9月19日にパプア州中央山間部に位置するインタンジャヤ県の山中深い場所にあるヒタディパ地区でキリスト教会のエレミア・ザナンバニ牧師が何者かに射殺された。

エレミア牧師はヒタディバ地区の神学校教師を務めながらインドネシア・エバンゲリカル教会所属のエマニュエル・ヒタディバ教会牧師として地域のパプア人から尊敬と信頼を集めていた人物という。

エレミア牧師射殺に関して事件直後から治安部隊と教会関係者、現地住民が主張する犯人が異なる事態となり、治安当局による捜査チーム、政府による調査チームが派遣されたものの、現地の住民はさらなる問題を回避するため山間部のさらに奥深く避難して、十分な事情聴取ができない状況が続いていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国民、「大統領と王の違い」理解する必要=最高裁リ

ワールド

ロシアの26年予算案は「戦時予算」、社会保障費の確

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ワールド

トランプ氏、豪首相と来週会談の可能性 AUKUS巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中