最新記事

インドネシア

パプア牧師殺人事件、政府調査団を地元教会が拒否 当局は現地に軍事作戦地域を発令か

2020年10月10日(土)19時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

2019年に西パプア州を訪れたジョコ・ウィドド大統領。Antara Foto / REUTERS

<パプア地方の人権問題に理解を示す大統領も、準戦時体制とすることを許容するか──>

インドネシアの東端、ニューギニア島西半分を占めるパプア地方(パプア州、西パプア州)でキリスト教会のパプア人牧師が殺害された事件の捜査が難航する中、ジョコ・ウィドド内閣の閣僚が編制、派遣を命じた「合同調査チーム」を地元のキリスト教会評議会が拒否していることが明らかになった。

牧師殺害事件では治安当局がパプア人独立組織の犯行とみなす一方で、パプア人やキリスト教関係者は陸軍兵士による犯行だと訴え、主張が対立している。

政府の「合同調査チーム」とは別に警察・軍による「合同捜査チーム」が現地に派遣されて真相解明、犯人逮捕の捜査を続けているものの、これまで全く進展がない。

現地のキリスト教会組織は、政府派遣の「調査チーム」の構成メンバーについて「到底中立で公正な調査ができるとは思えない顔ぶれである」と受け入れを拒否する姿勢を明らかにし、牧師殺害事件の調査は開始前から暗礁に乗り上げることが確実となった。

山間部、証人避難で手詰まりの捜査

9月19日パプア州中央山間部にあるインタンジャヤ県ビタディバ地区にあるプロテスタント教会所属のエレミア・ザナンバニ牧師が何者かによって射殺された。

警察や軍は同県などで活動する独立運動組織「西パプア民族解放軍(TPNPB)」(治安当局は単に「武装犯罪組織」と呼んでいる)の犯行として付近のジャングルなどを捜索しているが、犯人は発見、確保に至っていない。現地へのアクセスが不便極まりないことも捜査を難しくしているという。

一方のTPNPB側やキリスト教会関係者は現地の住民などから得た情報に基づいて「教会付近で活動していた陸軍の兵士によってエレミア牧師は射殺された」と主張している。

治安当局は「捜査チーム」を、インドネシア政府はマフード調整相(政治治安法務担当)による「調査チーム」を、それぞれ編成させて犯人逮捕と真相解明が進められることになっていた。

ところが捜査チームは手掛かりとなる証拠がなく、証人となる住民が治安当局の弾圧を恐れてジャングルの奥深くに避難してしまい、捜査は行き詰まりをみせていた。

さらに「調査チーム」の方も、政府人選のメンバーが明らかになり、キリスト教団体やパプア人権擁護組織などから「このメンバー構成では到底中立で公正な調査は望めない」として「調査チーム」の受け入れや協力を拒否することとなった。

当初マフード調整相は「合同調査チーム」は学識経験者、教会関係者、現地公的機関関係者で構成され「客観的に真相解明に全力であたるよう指示した」として、公正な調査が期待されていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中