最新記事

日本政治

もう一つの総裁選の闘い 女性宰相への遠い道のり、日本の政治はいまも男の世界

2020年9月14日(月)19時33分

菅義偉官房長官が終始リードして終わった14日の自民党総裁選、今回も壇上に女性議員の姿はなかった。過去、事実上の首相を決めるこの選挙に立候補した自民党の女性議員は小池百合子・現都知事のみ。出馬に意欲を示していた野田聖子元総務相も、稲田朋美幹事長代行も、最終的に手を挙げることはなかった。写真は防衛相当時の稲田氏(右)。ペイン豪国防相(当時)と会談。2017年4月、東京で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

菅義偉官房長官が終始リードして終わった14日の自民党総裁選、今回も壇上に女性議員の姿はなかった。過去、事実上の首相を決めるこの選挙に立候補した自民党の女性議員は小池百合子・現都知事のみ。出馬に意欲を示していた野田聖子元総務相も、稲田朋美幹事長代行も、最終的に手を挙げることはなかった。

天井は開いているが

野田氏が今回の総裁選への出馬を見送ったのは、安倍晋三首相の体調不良による辞任を受けた突然の出来事だったこと、正規の選出手続きが踏まれなかったことが理由だった。

だが、野田氏は過去2回の総裁選も出馬に意欲を示しながら立候補しなかった。ネックになっているのは、推薦人の確保など、男性が作り上げた既存の制度だけではない。女性がハードルになることも少なくない。

「天井は開いているんだけど、足を引っ張る人たちがいっぱいいる。ときにスカートはいた女の人たちも」──。ロイターの取材に応じた野田氏は、ガラスの天井を感じるかという質問にこう答えた。

50歳で生んだ障害を持つ子供がいる野田氏に対し、ネット上では批判が絶えないという。「障害を持った子どもがいるのなら子育てに専念しなさい」、「あなたが政治をやっているのはおかしい」。

野田氏は「(天井に)ぶつかっているというよりは、昇っていく途中で引きずり降ろされている感じ」と語った。

野田氏を始めとする女性議員や学者らの長年に渡る努力によって、2018年5月に「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が施行された。この法律は、各政党に衆参および地方議会選挙において「男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指す」よう促している。

三浦まり・上智大学法学部教授は、ここ数年で社会の意識が変化してきたとみる。保守派の安倍晋三首相が女性の活用を看板として掲げたことが、1つのきっかけになったと指摘する。「ジェンダー(問題)が主流化し、政策のど真ん中」になったと、三浦教授は指摘する。

それもで、2019年7月の参議院選挙で自民党の女性候補者の割合は15%を下回った。法律で目指すゴールは遠い。

コロナ対応で女性が活躍した国

「日本の場合、女性がいない民主主義と言われるくらい政治の世界に女性が少ない」と、自民党の稲田朋美幹事長代行はロイターに語った。稲田氏も、今回の総裁選に立候補することを締め切り直前まで模索していた。しかし、所属する党内最大派閥の細田派は菅氏への支持を決めた。

稲田氏は「まだまだ日本には政治は男がやるものという意識が大きい。女性が大挙して同じ意見を言うと、感情的だとか、良い意見を言っていても割り引いてとられているなと感じる」と述べた。

列国議会同盟の調査(2020年8月)によると、日本の国会(衆院)での女性議員の割合は9.9%と193カ国中167位。世界の平均は25.2%だった。一方、新型コロナへの対策では、ニュージーランドや台湾、ドイツで女性リーダーの活躍が目立つ。上智大の三浦教授は、実際に女性議員が他の先進国並みに増えるには20年はかかると見る。

もし首相になったら何をしたいか。野田氏は「閣僚の半分を女性にする。民間の女性も活用し、まず見た目を変えること。そこからまず始められるかな」と即答した。

(宮崎亜巳)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・自民党総裁選に決定的に欠けているもの
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・菅義偉、原点は秋田県湯沢のいちごの集落 高齢化する地方の縮図
・ビルボードHOT100首位獲得したBTS、韓国政府は兵役免除させるのか


20200922issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

東南アジアの洪水、死者161人に 救助・復旧活動急

ワールド

再び3割超の公債依存、「高市財政」で暗転 25年度

ビジネス

ミネベアミツミ、ボーイングの認定サプライヤーに登録

ビジネス

野村HD、オープンAIと戦略連携開始 収益機会を創
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中