最新記事

日本政治

菅義偉、原点は秋田県湯沢のいちごの集落 高齢化する地方の縮図

2020年9月14日(月)13時57分

子どものころからの友人、由利昌司氏が見せてくれた15歳のころの菅義偉氏(左)。秋田県湯沢市にある由利氏の自宅で撮影(2020年 ロイター/Chris Gallagher)

気温が上がってきた夏の昼どき、街の中心部にある商店街は半分以上の店がシャッターを下ろしている。通りに人影はほとんどなく、たまに見かける通行人はみんな高齢者だ。

百貨店の大きなビルは、耐震基準に合わずに使われなくなったが取り壊すにもコストがかかるため放置されている。駅からほど近い、「I LOVE YUZAWA(湯沢が大好き)」と壁面に書かれた建物にも人は見当たらない。

東京から480キロ離れた秋田県湯沢市は、次期首相の座が近づく菅義偉官房長官(71歳)の故郷だ。菅氏が生まれ育った秋ノ宮の集落は住民の半数近くが60歳以上、これから菅氏が日本のリーダーとして直面する問題が凝縮されている。

湯沢市は人口減と高齢化で税収が悪化、財政は政府からの補助金に依存せざるを得ない。県内の他の自治体との合併が選択肢の1つとして浮上している。

「世界で最も高齢化が進む日本の中でも、一番は秋田。その中でも湯沢が最も進んでいる。高齢化の一番の先端はこの湯沢ということになる」と、湯沢市役所の阿部透課長は言う。阿部課長によると、住民の40%近くを65歳以上が占め、日本の全国平均28%を大きく上回る。

「正直なところ、国からの財政支援がないと回って行かない」と、阿部課長は話す。市の年間予算270億円のうち、税収で賄えているのは5分の1に過ぎないという。

たばこは貴重な税収

湯沢市は、冬になると2メートルの雪が積もる豪雪地帯でもある。そんな街で生まれ育ったということが、世襲や裕福な家庭の出身者が多い日本の政界の中で、「叩き上げ」という菅氏のイメージを際立たせる。

そして、それは外国人観光客の誘致、農協改革、ふるさと納税という形で菅氏の政策にもつながっている。

看板政策のふるさと納税が始まったのは2008年だが、「(その)はるか前から話をしていた」と、総務官僚として菅氏のもとで働き、のちに事務次官になった岡崎浩巳氏は振り返る。「自分は秋田で高校まで育って世話になっているのに、上京してから一銭も(故郷に)納税していないのはおかしい。何か仕組みはないだろうか、と」。

住民の多くは経済的な衰退の原因を人口減少、とりわけ低い出生率にあるとみている。

すでに廃坑となった銀山で働いていた人たちを含め、1955年には8万人がこの街で暮らしていた。それが今は半減、昨年高校を卒業した生徒はわずか442人だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 

ワールド

米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示

ワールド

焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換

ワールド

イランとイスラエル、再び相互に攻撃 テヘラン空港に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 9
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 10
    先進国なのに「出生率2.84」の衝撃...イスラエルだけ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 8
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中