最新記事

事件

深まるベイルート大爆発の謎 原因となった硝酸アンモニウム、所有者は誰か?

2020年8月15日(土)12時42分

写真は2014年夏、ベイルートの港に停泊中の貨物船「ロサス」で、積み荷の硝酸アンモニウムを背に写真に収まる船長(右)と甲板長ボリス・ムシンチャク氏。ムシンチャク氏提供(2020年 ロイター)

レバノンの首都ベイルートの大爆発に関してロイターは、港湾地区に保管され、爆発を引き起こした大量の硝酸アンモニウムの所有者を突き止めるべく、10カ国で取材を展開した。

しかし文書の紛失、情報の秘匿、複雑に結び付いた正体のはっきりしない小さな企業などが出てくるばかりで、所有者の身元を割り出すことはできなかった。

硝酸アンモニウムをベイルートまで運んだモルドバ船籍の貨物船「ロサス」の関係者はいずれも、所有者を知らないか、質問への回答を避けた。ロサスの船長、硝酸アンモニウムを製造したジョージアの肥料メーカー、製品を発注したアフリカ企業は全て所有者が分からないと回答。発注元のアフリカ企業は製品の代金を支払っていなかった。

船積み記録によると、ロサスは2013年9月にジョージアで硝酸アンモニウムを積み込み、モザンビークの爆発物メーカーに届けることになっていた。しかし船長と船員2人によると、地中海を離れる前に、同船の事実上のオーナーとみられていたロシア人実業家イゴール・グレシュキン氏から、当初予定になかったベイルートに寄港し、別途貨物を積むよう指示された。

ロサスは同年11月にベイルートに到着したが、未払いの港湾使用料を巡る法的紛争に巻き込まれ、船舶自体にも不具合が見つかり、ベイルートに足止めされた。当局の記録によると、債権者はロサスの登記上の所有者であるパナマの企業に対し、船舶の所有権を放棄するよう迫り、その後硝酸アンモニウムはロサスから降ろされ、埠頭近くの倉庫に保管された。

債権者の代理人を務めたベイルートの法律事務所は、硝酸アンモニウムの当初の法的所有者の身元についての問い合わせに応じなかった。ロイターはグレシュキン氏と連絡を取ることができなかった。

レバノンの通関当局によると、積み荷を全て降ろしたロサスは2018年に停泊地のレバノンで沈没した。

硝酸アンモニウムの代金を誰が支払ったのか、所有者はロサスが沈没したときに積み荷の回収を求めたのか、もし求めなかったのならその理由は何か、こうした問題は依然として謎に包まれている。

ロサスが積んでいた硝酸アンモニウムは2750トン。業界関係者によると、2013年当時の価格で約70万ドル(編集注:現在のレートで約7500万円)相当だという。


【話題の記事】
・コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新たな「パンデミックウイルス」感染増加 中国研究者がブタから発見
・韓国、ユーチューブが大炎上 芸能人の「ステマ」、「悪魔編集」がはびこる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ、今年の成長率予想を2.1%に下方修正 米関税

ビジネス

中国メーカー、EU関税対応策でプラグインハイブリッ

ビジネス

不振の米小売決算、消費意欲後退を反映 米関税で

ワールド

イスラエル、シリア大統領官邸付近を攻撃 少数派保護
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中