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中国経済は悪化していたのに「皇帝」が剛腕を発揮できた3つの理由

2020年7月22日(水)17時55分
近藤大介(ジャーナリスト) ※アステイオン92より転載

習近平の大国復活の夢

二一世紀に入ると、中国は悲願だったWTO(世界貿易機関)への加盟と、二〇〇八年の北京オリンピック開催を勝ち取った。鄧小平は一九九七年に没したが、その「遺志」は江沢民と胡錦濤に引き継がれた。

二〇〇八年夏に北京オリンピックを成功させた後、多くの開催国がそうであったように、中国経済も「中折れ」するリスクがあった。だが直後に、金融危機(リーマン・ショック)がアメリカを襲い、続いてギリシャ債務危機がEU(ヨーロッパ連合)を襲った。

その結果、欧米はチャイナ・マネーを頼った。中国はG7(先進国)サミットに代わるG20(主要国・地域)サミットの主要メンバーとなったばかりか、BRICS(新興五カ国)を創設して台頭していった。二〇一〇年にはGDPで日本を追い越して世界二位となり、「G2時代」(アメリカと中国の二強時代)の到来と言われた。

そんな中、二〇一二年一一月の第一八回中国共産党大会で、総書記(共産党トップ)に就いたのが習近平副主席だった。習近平総書記は翌年三月、国家主席にも就任。党と国家の中央軍事委員会主席にも就き、党・政府・軍の三権を掌握した。

習近平時代になって、中国経済は悪化していった。そのことを、先に述べた天安門事件後に中国が持ちこたえた三つの理由と比較して考えると、以下のようなことになる。

第一に、習近平主席が目指した指導者像は、「鄧小平の再来」ではなくて「毛沢東の再来」だった。おそらく習主席にとって、鄧小平、江沢民、胡錦濤の三人は「毛沢東の付け足し」のような指導者であり、二〇世紀中葉に毛沢東が中華人民共和国を建国した後、自身が二一世紀の前半に中国を世界最強の国にするという意欲を沸き立たせていたに違いない。

習近平政権が掲げたスローガンは、「中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現」だった。一八四〇〜四二年のアヘン戦争でイギリスに敗れるまで、中国は古代からほぼ継続して世界一の大国だった。毛沢東が一九四九年に中華人民共和国を建国して復興の礎を築き、自分が大国復活の夢を完成させるということだ。

習近平主席は、このような気宇壮大な夢想を抱いたが、同時に毛沢東主席の欠点も引き継いでしまった。それは経済問題に疎いということだ。習主席は、青年時代に文化大革命で下放されたこともあって、まともな学校教育を受けていない。そのため、毛沢東ばりの非情な権力闘争は得意でも、鄧小平ばりの炯眼な経済政策は打てない。

第二に、中国伝統の「皇帝制度」は継承したが、それは残念ながら、賢帝と呼ばれた時代のものではなかった。

私が見るに、中国歴代の皇帝の中で、習近平主席と酷似しているのが、清朝五代皇帝の雍正帝(ようせいてい、一六七八年〜一七三五年)である。五代目であること、少年時代に都(宮廷)から追い出されたこと、四番目の候補者だったこと、エリートを信用しなかったこと、秘密警察のような組織を使って政敵を貶めていったこと......。この両者、とかく共通点が多いのである。ちなみに雍正帝は、父・康熙帝(こうきてい)が六一年、息子・乾隆帝(けんりゅうてい)が六〇年の長期政権を敷いたのに較べて、在位一三年目のある日、執務室で謎の変死を遂げている。

前述の「太子党」と「団派」の活用で言うなら、習近平主席は「エリート嫌い」なので、「団派」は信用しないし遠ざけようとする。そうかといって「太子党」は、「我こそはミスター共産党」と自負している大物が多いから、幼馴染みの薄熙来元中央政治局委員のように、監獄にぶち込んでしまったりする。

そのため、有能な人材はなかなか登用されない。実際、習主席は共産党総書記に就任した翌月に「八項規定」(贅沢禁止令)を定め、「虎(大幹部)も蠅(小役人)も同時に叩く」と称して、一期目の五年間で一五三万七〇〇〇人もの幹部を、汚職幹部として追放してしまった。

その結果、「中南海」で幅を利かせるようになったのは、二つのタイプの人間だった。第一は、従順で朴訥な地方出身者。第二は、阿諛追従に長けた輩である。彼らは「新権貴(シンチュエングイ)」(新たな権力を手にした貴族)と呼ばれて畏れられたが、習近平主席の動向だけを見て仕事をしたため、官僚の不作為(習主席が指導したこと以外のサボタージュ)が蔓延するようになった。

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