最新記事

教育

公立学校の授業に感じた「悲惨さ」の正体 日本の教育スタイルはこのままでいいのか

2020年7月24日(金)12時00分
親野 智可等(教育評論家)*東洋経済オンラインからの転載

40人の子どもたちを相手に一斉授業を行う先生は、どのレベルに焦点を当てて進めればいいだろうか? xavierarnau - iStockphoto

コロナ禍をきっかけに、私たちの生活や仕事などいろいろな面で見直しが行われている。この機会に、小中学校の授業のあり方も見直す必要があると思う。なぜなら、日本でずっと行われてきた授業スタイルの"限界"が明らかになっているからだ。

コロナ禍でますます開く学力格差の問題点

日本では、1学級最大40人の児童・生徒の集団に対して、1人の先生が一斉授業を行うというスタイルが基本だ。こういった授業でいちばん問題なのが、児童・生徒たちの学力格差が非常に大きいということだ。

とくに、算数・数学の授業でそれが顕著だ。公立の小中学校の場合、同じ年齢の児童・生徒の集団とはいっても、算数・数学における学力格差は非常に大きい。例えば5年生の児童に「円の面積」を教えるとしよう。なかには、塾などで学習済みですべて完璧に理解している子もいる。一方、基礎的なかけ算やわり算さえおぼつかない子もいる。足し算や引き算さえできない子がいることもよくある。

こういった子どもたちを相手に一斉授業を行う先生は、どのレベルに焦点を当てて進めればいいだろうか? もし学力上位の子たちに焦点を当てて進めれば、当然、大多数の子を落ちこぼすことになる。だから、多くの場合、学力が「中位の下」か「下位の上」くらいのところに焦点を当てて進めることになる(「中位の下」とか「下位の上」などという言葉は好まないが、ほかに適当な表現が見当たらないので使用する)。

さて、これでも「下位の上」より学力が低い子たちには難しくて理解できない。でも、さらにレベルを下げてしまうと、時間がかかりすぎて進度が遅れることになる。すると、1年間で教科書を終わることができなくなる。だから、先生はこれらの子たちが理解していないことがわかっていても、授業を次に進めていかなければならないのだ。

これらの子たちには、その子の学力に応じた個別な指導が必要なのだ。でも、先生にはそれを行う時間がない。先生たちはつねに超多忙で、やるべきことが山のようにあり、そういう個別な指導をする時間が取れないのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アルミに供給不安、アフリカ製錬所が来年操業休止 欧

ビジネス

川崎重社長、防衛事業の売上高見通し上振れ 高市政権

ワールド

インド中銀総裁「低金利は長期間続く」=FT

ビジネス

シャドーバンキング、世界金融資産の51% 従来型の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中