最新記事

イギリス

イギリス パブを再開しても、ビールは大量廃棄

2020年7月20日(月)14時30分
松丸さとみ

ほとんどのパブで、栓を開けないまま消費期間が切れてしまった...... LBC-YouTube

<イギリスでは、7月4日にパブやレストランの営業が再開となったが、英国版消費税の減税、アルコールは対象外でパブ利用も減少、英国文化のパブに陰り?>

パブ再開前に浮足立つ人々

新型コロナウイルス感染症の予防策として3月からロックダウンを実施していた英国だが、7月4日にイングランドで、パブやレストランの営業が再開となった。4日は土曜日だったこともあり、「スーパーサタデー」と表現され、イングランド全体がはしゃいでいるようだった。

ツイッターでは、パブ再開を受けて英国の財務省が喜びのあまり、公式ツイッターで「パブ再開を祝って乾杯!」と投稿。「多数の死者が出ているのに不謹慎」と批判が殺到したため、同省は投稿を削除した

ボリス・ジョンソン首相は、パブ再開に際して「羽目を外しすぎないように」と国民に注意を促し、ロンドン警視庁は市中の警官配備を強化し、「落ち着いて、常識的に」パブを楽しんでほしいと呼びかけた。

約3カ月を経ての再開を前に国民の多くが浮足立ってしまうような、英国文化の象徴とも言えるパブ文化だが、実は危機にさらされているという。

景気支援策、アルコールは対象外

まず、新型コロナウイルスで受けた打撃に対する景気支援策として、英国政府は日本の消費税に当たる付加価値税(VAT)を、接客業と娯楽産業について、現在の20%から5%に削減すると決定した。しかしアルコールがこの対象外となってしまったのだ。

この減税措置は、7月15日から来年1月12日までの半年間、ホテルなどの宿泊施設や、レストランやパブなどのサービス業の他、劇場、遊園地、動物園、映画館、展示会などの入場料にかかるVATが5%になるものだ。英ガーディアン紙によると、これにより15万もの事業が恩恵を受けるという。

さらに、8月の月~水曜日を対象に、レストランやカフェでの食事が半額割引(割引額は最大10ポンド)になる食事代補助政策、「イート・アウト・ヘルプ・アウト」も行われる。登録された外食産業で食事をした人は代金を半額にしてもらえ、事業側は政府にその分を請求できるという仕組みだ。しかしここでもまた、アルコールは対象外だ。

アルコールがことごとく景気支援策から対象外とされたことに、パブ業界は衝撃を受けている。2019年に行われた同業界の調査報告書によると、英国のパブのうち64%は、食事よりもアルコールの売り上げの方が多く、事業を支えているのはアルコールなのだ。

イングランド南西部でパブを3軒経営しているエドワード・アンダーソンさんはガーディアンに対し、現在5万ポンド(約675万円)の家賃の負債を抱えていると打ち明けた。アルコールが今回の支援策に含まれていたら、家賃を完済できたのに、と肩を落とす。パブは地域社会の一部であり、救済措置から外すなんてあり得ない、とアンダーソンさんは主張する。ガーディアンは、大手パブチェーンからも批判が上がっているとしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

BMW、第2四半期販売は小幅増 中国不振を欧州がカ

ワールド

ロシアに関する重要声明、14日に発表とトランプ米大

ワールド

ルビオ長官、11日にマレーシアで中国外相と会談へ 

ワールド

UAE、産油能力を一段と拡大する可能性も=エネルギ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中