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日本人とアラブ人が考える「理想の仕事」の違い

2020年7月11日(土)15時10分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学教授)

アラブ人は目的達成のためなら、あらゆる手段の行使を惜しまない。日本の場合はもちろん目的を重視してはいるが、それ以上に体面や手段にこだわる傾向があるように思う。

例えば、私の職場では、研究室にまで来てパソコン上の出勤のボタンを押さなければ欠勤となる。また、他の同僚が残業していると帰りづらい。仕事がなくても皆が帰り出すまで机に座っているのは、アラブではナンセンスだろう。いかに早くいかに効率的に結果が出せるかが大切である。だから毎日のように残業していても、その姿自体は評価の対象とはならないのである。逆にあんなに残っていてこれをやったのかと、業績から残業している姿がマイナスされて評価されることになる。残業したことより、なし得た業績を見られる。結果が評価の対象となるのだ。

日本では、今の「リモートワークやテレワーク」などで効率良く早い時間で仕事を終わらせ、アフターファイブを楽しむ姿は何となく「ずるい」とされてしまいがち。深夜残業をして大変そうな姿をアピールしていると、「頑張っている」と評価されるという印象も未だに社会に根強くある。

ひたすら利益や目的の追求に全力を投入する「目的志向」のアラブ人マインドと、ビジネス相手とまず和を構築し、一つの同質な集団として仕事を進めていこうと考える「手続き志向」の日本人マインド。こうした日本人とアラブ人のメンタル的な違いはビジネスの場面でも、人間関係においても現れる。日本人はアラブ人のやり方や感覚に対して「ずるい、フェアじゃない」と不満を感じる場面が少なくなく、不協和音が聞こえてくることもある。

だからこそ、異文化摩擦に学びながら日本の「マインド」とアラブの「マインド」を繋げてくれる留学生の人材育成や、多種多様なビジネスによる交流など、新世代によるパブリック・ディプロマシーの役割に大きく期待したい。

almomen-shot.jpg【執筆者】アルモーメン・アブドーラ
エジプト・カイロ生まれ。東海大学・国際教育センター教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会」などがある。

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