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習近平はなぜ香港国家安全維持法を急いだのか?

2020年7月7日(火)11時05分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

来年は建党百周年記念となる。

この大きな節目までに習近平としては何としても香港問題(コモンローによる外国籍裁判官問題)を解決したいと思っていた。特に今年の9月には香港立法会の選挙があるので、それまでに間に合わせたいという目論見もあった。

一国二制度は「社会主義体制」と「資本主義制度」

少なからぬ人が「一国二制度」の中に「民主主義」とか「高度の自治」とかが含まれていると勘違いし、「一国二制度は終わった」とよく言うが、これは正確ではない。

「二制度」とは「社会主義制度(大陸)」と「資本主義制度(香港)」のことを指す。

トウ小平とサッチャーが初めて香港返還に関して話し合ったのは1982年。

資本主義に走る人民を「走資派」と批判して投獄した文化大革命(1966年~76年)が終わってから、まだあまり時間が経っていなかった。だから資本主義制度の下に、いくら金儲けに走っても逮捕しませんよという証拠に、香港に資本主義制度を認めた。

今も香港には資本主義制度が厳然と存在しており、もし「一国一制度」になったと言うのなら、大陸の方が「国家資本主義」になったので「一制度になってしまった」ということなら納得できる。

「二制度」にある「香港の資本主義制度」は全く変わっていない。

香港の高度の自治を守るという原則は基本法に書いてある。

そしてこの基本法は全人代常務委員会の管轄下にあると規定されているのである。

西側諸国はむしろ、中国のこの周到さを警戒した方がいい。

香港の民主運動は中国の若者に影響を与えるか

日本の評論家の中には、習近平が香港国家安全維持法制定を急いだのは「香港の民主運動の機運が広東や上海に浸透して中国大陸の民主運動を刺激するのを防ぐためだ」「習近平はそれを恐れている」と言っているのを知って大変驚いている。

あまりにも中国の現実を反映していないからだ。

7月に入ってから中国の若者数名を取材した。

「香港の民主運動が大陸の若者の民主運動を刺激しますか?」と聞いたところ、みな異口同音に否定した。

●民主主義の何がいいんですか?

●民主主義国家の砦としてのアメリカは、今どんな風になっていますか?人種差別への抗議運動に対して、トランプは「いざとなったら軍隊を出動させる」と脅しているし、コロナの感染といったら、1日の新規感染者数が5万人を超え、全体の感染者数は300万人に達しようとしている。死者だって12万人を超えているでしょ?大統領選挙のために国民の健康を犠牲にしている。それでも民主主義がいいんですか?

●日本だってそうでしょ?安倍晋三は選挙のために多くの不正をやっている感じで、国民の税金を特定の個人のために使ってるんじゃないんですか?それも選挙のためでしょ?民主主義って、何かいいことありますか?

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