最新記事

スペースX

スペースXの衛星ネットワーク「スターリンク」は、世界の情報格差を解消できるか?

2020年6月24日(水)12時30分
松岡由希子

軌道上で稼働可能なスペースXの衛星は530基を超える

<イーロン・マスク率いるスペースXでは、次世代型衛星ネットワークを構築する「スターリンク」計画を着々とすすめている......>

アメリカの実業家イーロン・マスクが率いる民間宇宙企業スペースXでは、小型通信衛星を高度540〜570キロメートルの低軌道に送り込み、次世代型衛星ネットワークを構築する「スターリンク」計画をすすめている。

2020年6月3日、8回目のミッションで米ケネディ宇宙センターから約60基を打ち上げたのに続き、13日にも、9回目のミッションとして約60基を低軌道に送り込んだ。これにより軌道上で稼働可能な衛星は530基を超える。また6回目までに打ち上げられた衛星、合計360基の位置は「starlink satellite map」に示されている。

starlink-system.jpg

スターリンク計画のイメージ

2020年末までにブロードバンドインターネットサービスを開始予定

連邦通信委員会(FCC)は、スペースX に対し、2018年に小型通信衛星11943基の運用を認可し、2020年3月には、この衛星ネットワーク用地上基地局を100万カ所設置することも承認している。

スターリンクは、低軌道に多数の通信衛星を配置して大規模なネットワークを構築し、通信衛星の間で情報をやりとりさせる仕組みで、地上のインフラに制約を受けず、世界中に高速ブロードバンドインターネットを提供できるのが特徴だ。2020年末までに北米でサービスを開始し、2021年以降、世界で展開する計画となっている。

スターリンクのような低軌道通信衛星によるインターネットは、気象に影響を受けやすく、高価な既存の衛星インターネットに比べて、レイテンシ(通信の応答時間)が低いとされている。同様の衛星ネットワークの構築に取り組むスタートアップ企業ワンウェブでは平均レイテンシが32ミリ秒を記録した。

しかし、この数値は、平均レイテンシが12〜20ミリ秒の光通信に比べると劣っている。スターリンクのレイテンシは現時点で明らかになっていないが、米国のブロードバンド市場への参入を目指すならば、「平均レイテンシは20ミリ秒未満とする」という既存の基準を下回る必要があるだろう。

デジタルデバイド解消基金の基準を満たすか?

連邦通信委員会は、2020年1月30日、米国の地方部での高速ブロードバンドインターネットの普及を推進し、デジタルデバイド(情報格差)の解消につなげる基金「地方部デジタル機会基金(RDOF)」を創設。今後10年にわたって、地方部での高速ブロードバンドネットワークの構築に総額204億ドル(約2兆1800億円)を投じる。

この基金は、低軌道通信衛星を活用したブロードバンドインターネットも対象となっており、スペースXはその応札に関心を示している。これに対し、連邦通信委員会は、6月9日、「スペースXを含め、衛星インターネット・プロバイダーにも応札する権利はある」と述べる一方で、「『レイテンシは100ミリ秒を下回らなければならない』とする応札基準をスペースXが満たすかどうかについて判断する必要がある」との見解を示している。

【話題の記事】
動画:「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?
ヒトの老化は、34歳、60歳、78歳で急激に進むことがわかった

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中