最新記事

集団感染

米国、ドイツ、英国の食肉加工工場で集団感染発生 その理由は?

2020年6月26日(金)18時30分
松岡由希子

各国の食肉処理工場で集団感染が起きている...... REUTERS/Eduard Korniyenko

<食肉処理工場内は密閉された空間で常時室温が低いことや、多くの労働者が寮で集団生活をしていることなどが、感染リスクを高める要因ではないかと指摘されている......>

ドイツ連邦政府は、2020年5月6日以降、新型コロナウイルス感染拡大防止のための制限措置を段階的に緩和してきたが、西部ノルトライン=ヴェストファーレン州ギュータースロー郡の食肉処理工場で従業員1500名以上が新型コロナウイルスに集団感染したことを受け、州政府は6月23日、ギュータースロー郡とワーレンドルフ郡を対象に制限措置を再び講じると発表した。24日から30日までの間、3人以上の集会を禁止し、映画館やスポーツジム、バーなどの営業を停止する。

アメリカの食肉処理工場で20名が死亡、イギリスでは操業停止

食肉処理工場での新型コロナウイルスの集団感染は、すでに米国でも確認されている。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、4月9日から27日までに米国19州115カ所の食肉処理工場で全従業員の約3%にあたる4913名が新型コロナウイルスに感染し、20名が死亡した。

工場内は密閉された空間でソーシャルディスタンスを確保しづらく、常時室温が低いことや、多くの労働者が寮で集団生活をしていることなどが、感染リスクを高める要因ではないかと指摘されている。

英国のウェールズでは、北西岸のアングルシー島スランゲヴニにある大手食品加工会社「2シスターズ」の食肉加工工場で集団感染が発生し、6月18日から2週間、操業を停止。24日時点で、従業員やその家族ら、200名の感染が確認された。

ウェールズのレクサムにある食品加工会社「ローワン・フーズ」の工場でも24日時点で97名の感染が確認され、1000名以上が検査を受けている。ウェールズ政府は、労働者の安全に配慮し、職場で2メートルの距離を確保する措置を講じるよう義務づけているが、今週中にも業界関係者と協議し、食肉加工工場に特化した感染予防ガイドラインの策定をすすめる。

低温の環境によって感染リスクが高まっている?

発生医学を専門とする英リバプール大学のカルム・センプル教授は、欧米各国の食肉加工工場で新型コロナウイルスの集団感染が相次いでいる要因として、低温で自然光に乏しい食肉加工工場特有の環境を挙げ、英紙「デイリー・テレグラフ」で「ウイルスを保存するとしたら、冷凍庫や食肉加工工場のように、紫外線が当たらない暗冷所を選ぶだろう」と述べている。

センプル教授は、野菜など、他の食材を扱う食品加工工場で集団感染が確認されていないことから、温度が主な要因になっているのではないかとみており、「ウイルスを長期間生存させるための最適な場所は、日光の当たらない冷所だ」と指摘する。

英レディング大学の分子微生物学者サイモン・クラーク博士も同様の見解を示している。英タブロイド紙「デイリー・メール」の取材に対し、縫製工場など、従業員同士が密集しているおそれのある他の工場では集団感染が確認されていない一方、英国、米国、ドイツの食肉加工工場で同様の集団感染が発生していることを鑑み、「あくまでも仮説だが、低温の環境によって新型コロナウイルスへの感染リスクが高まっているのかもしれない」と述べている。

【話題の記事】
「ドイツの黒人はドイツ人とは認められない」 ベルリンで起きた共感のデモ
動画:「鶏肉を洗わないで」米農務省が警告 その理由は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中