最新記事

日本社会

「自粛」という言葉の向こうに見えてくる日本人独特のマインド

2020年6月23日(火)18時00分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学教授)

新型コロナウイルス危機が続いたこの数カ月、最も私たちの耳に残った単語が「自粛」だろう Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<新型コロナウイルスの対策として求められた「自粛」からは、日本人の「共生」と「利他」の意識が読み取れる>

この間、インターネットで面白いサイトを見つけた。日本漫画の最高峰となる4コマ漫画を自動生成する「全自動4コマ」で、「クロノス・クラウン」という会社のユニークな実験サイトである。検索エンジンのようにユーザーが単語を入力すると、ネット上のデータを元にその言葉に合わせた4コマ漫画を生成する仕組みだ。試しに最近気になっている単語「自粛」を入れてみた。そうすると、次のような4コマ漫画ができた。

▼1コマ目:ねえ、ハモちゃん、自粛って気まずいものよね?
▽2コマ目:お前は、自粛のことをどれだけ知っているというのだ!
▼3コマ目:ええ~~、そんなこと、言われても......
▽4コマ目:自粛とはウクレレのことだ!

意味不明なオチとなっているが、4コマ漫画らしい持ち味はちゃんと出ている。とはいえ、インターネット上のデータによる検索機能を使っても、自粛の明確な意味の説明は容易ではないことが分かった。

言葉は「社会・文化を映し出す鏡だ」と言われている。若い頃はあまり実感していなかったが、最近本当にそうだと思う。調査したわけではないが、おそらくこの数カ月で、「新型コロナウイルス」と同じぐらい、最も私たちの耳に残った単語といえば「自粛」ではないか。外出自粛、イベント自粛、渡航自粛、帰省自粛などなど。自身の修身と社会への責任を含意するこの「自粛」という単語こそ、日本人の気質やマインドを理解するための1つのヒントになるかもしれない。

新型コロナウイルスの感染拡大の防止策の一環として2カ月間出されていた緊急事態宣言の決め台詞となった「行動自粛」。その自粛という言葉の意味を伝えるのが世界各国メディアには一苦労だった。海外標準の言語感覚では緊急事態宣言イコール、強制的な移動規制や私権の制限などであるが、日本の場合は自粛という修身による自己コントロールだ。つまり政府が国民に求めたのは、自分で自分の行動を規制することだ。

日本人の判断基準は「責務を果たすこと」

言語の研究者として日々、人間と言葉の関係を考え続ける私は、この数カ月の間に日本人の行動規範の1つとなった「自粛」についても考えるようになった。そしていつものように曖昧な意味の日本語と、その内容を伝えきれない自分に突き当たる。もちろん、辞書を引けば「控える」という一般的な意味にたどり付けるが、探しているのは「自粛」に秘められている日本人特有の意味深長な行動の、その先にある感情や考え方だ。

「自粛」とは、そもそもどういう意味なのだろう。日本一の収録語数辞典という日本国語大辞典で「自粛」を引いてみると、「自分から進んで、行いや態度を慎むこと」とある。日本語には、自粛や自重、自戒、自制などのような、行動すべき内容を自ら考え、判断するという自主性や自律的行動が求められる言葉が少なくない。しかし、これはあくまで表面的な意味にしか過ぎない。自分の判断で主体的に行動を起こすというのは日本人が一番苦手とすることの一つである。

日本人の判断や行動の元となる規準についてアメリカの文化人類学者ルース・ベネディクトは、「平等の権利を獲得することではなく、責務を果たすこと、自由な人間になるのではなく、期待される人間となること」(『日本人の行動パターン』NHKブックス)だとしている。そのために自分の行為が周りの非難を受けないように厳しい自己監視や慎重な判断が求められる。内心では納得していなくても他者による非難や報復を避けようとして、また、周りから悪い印象をもたれないように自粛や自重などの行動で自己提示する。

<関連記事:「自粛要請」で外出を控えた日本人は世界に冠たる不思議な人々

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中