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北朝鮮

独裁者の「恥部」を暴露した脱北者の命が狙われる?

2020年6月17日(水)13時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

写真は2012年に朝鮮中央通信が配信したスポーツ銃を試射する金正恩 KCNA-REUTERS

<支配体制を恐怖で維持するために「見せしめ」を多用してきた金正恩が、脱北者に対してそれをしない保証は決してない>

北朝鮮が、金正恩体制を非難するビラを北に向けて散布した韓国の脱北者団体と、それを許容した文在寅政権への強硬姿勢を強める中、北朝鮮各地では国民に脱北者への憎悪を植え付けるための講演会が開かれている。

両江道(リャンガンド)の現地情報筋が韓国デイリーNKに伝えたところでは、「当局から派遣されてきた講師は何人かの(脱北者の)個人名まで挙げながら『人民の名において必ずや処断(処刑)する』などと、驚くべきことを言っていた」という。

また情報筋によると、「こうした発言を聞いた住民たちの間では『当局が特攻隊を南に派遣するようだ』との噂が急速に広がっている」という。

北朝鮮当局が、金正恩党委員長の命令とあらば、彼の「敵」を抹殺するため相当な無理をやらかすことは、2017年にマレーシアで起きた金正男(キム・ジョンナム)氏暗殺事件を見れば明らかだ。

たとえ北朝鮮に対する警戒が厳重な韓国国内であっても、ひとたび狙われたら安全とは言えない。体制を恐怖で維持するため「見せしめ」を多用してきた金正恩氏が、脱北者に対してそれをしない保証は決してないのだ。

<参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

1997年2月15日、韓国・ソウル市郊外のアパートで、ひとりの男性が凶弾に倒れた。男性の名前は李韓永(イ・ハニョン)。自宅アパート14階のエレベータ前で、2人組の男に銃撃された。ただちに病院へ搬送されたが、10日後に死亡している。

1960年に平壌で生まれた李氏は、金正日総書記の2番目の妻ソン・ヘリム氏の姉であるソン・ヘラン氏の息子だった。

韓国当局は李氏が射殺された事件を、北朝鮮の南派工作員による最初の脱北者殺害と見ている。そして刺客を放ったのは、外ならぬ金正日氏だった。

李氏は、北朝鮮にいたときの本名を李一男(リ・イルナム)といった。平壌では、金正日氏夫妻とその息子・正男(ジョンナム)氏と生活をともにし、金王朝の深奥の秘密に通じていた。

ヨーロッパを経由して韓国に亡命した李氏は1996年、金正日氏とロイヤルファミリーの私生活を赤裸々に綴った手記『大同江ロイヤルファミリー・ソウル潜行14年』を出版。それ以降も各種メディアを通じ、「喜び組」や「秘密パーティー」など、体制の恥部とも言える秘話を暴露していく。

これに、金正日氏は激怒したという。

<参考記事:【写真】水着美女の「悩殺写真」も...金正恩氏を悩ませた対北ビラの効き目

そして最近、脱北者団体・自由北韓運動連合が北に向けて飛ばしたビラでは、北朝鮮の一般国民が決して知ることのできない金一族の「暗部」が暴露されている。

その内容に金正恩氏が激怒したとすれば、1997年の事件が再現されないとも限らないのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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