最新記事

アメリカ社会

米黒人暴行死の抗議デモ激化 対抗する警察が使う武器とは?

2020年6月12日(金)10時42分

米国各地の警察が黒人暴行死への抗議デモに対し、以下に解説するような様々な武器を使用している。写真は1日、催涙ガスやスプレーを使って抗議デモを解散させるシアトルの警察(2020年 ロイター/Lindsey Wasson)

米国各地の警察が黒人暴行死への抗議デモに対し、以下に解説するような様々な武器を使用している。デモの多くは平和的に行われているが、一部は暴動に発展、放火や略奪が発生し、警察と激しく衝突する事態になった。武器行使の対象は平和的なデモ参加者や報道関係者にも広がっている。致死性はないとされても、重傷を負わせたり、身体機能が奪われる障害が残ったり、場合によっては死を招くこともある。

化学性刺激物

催涙ガスやいわゆる唐辛子スプレーなどの化学性刺激物は、気道をひりひりさせ、痛みや炎症を引き起こす。公衆衛生や感染症の専門家は催涙ガスのような化学性刺激物の使用に強く反対している。オンライン上で公表された専門家の声明によると、こうした化学性刺激物は新型コロナウイルス被害のリスクを高める可能性がある。呼吸道が感染しやすくなるためだ。

化学性刺激物は広く拡散し得るため、警察が狙っていなかった通行人や居合わせた人も巻き込む可能性がある。

催涙ガスは警察がデモ参加者を追い散らす際に、幅広く、たびたび使用されてきた。CSガスないしCNガスと呼ばれる化合物の粉が、弾筒からまき散らされる。浴びると目や口が使えなくなる。

デモ参加者は化学性刺激物から身を守るため、牛乳によって焼けるような痛みを抑えることがある。

唐辛子スプレーと唐辛子ボール

警察が使用する唐辛子スプレーは、携行用容器に入っているものと発射装置式のものとがある。化学成分は催涙ガスと異なるが、引き起こす作用は同様だ。目や肌に焼けるような痛みを与えたり、涙の流出を引き起こしたりする。

唐辛子ボールが使われることもある。化学性刺激物が入っている小型の発射装置だ。内容物は唐辛子スプレーと似た痛みを起こすPAVAスプレーや、CSガスにすることもできる。発射筒や改造したペイントボール銃からも発射が可能だ。

ゴム弾・プラスチック弾

デモ参加者たちには、ゴム製、プラスチック製、スポンジ製などさまざまな弾丸が発射されている。その際は発射筒や銃が使用される。黒人男性の死亡事件が起きたミネソタ州ミネアポリスでのデモを取材中、ロイターの記者らは警察から40ミリの硬質プラスチック弾で撃たれた。

ガルセッティ・ロサンゼルス市長は、市警察は今後、平和的なデモではゴム弾の使用を最小限に控えると述べた。

英メディカル・ジャーナル誌に2017年に掲載された調査によると、こうしたゴム弾などによる負傷が死に至る確率は2.7%あるという。

木製弾

オハイオ州コロンバスの抗議デモの参加者らが、警察から木製弾を撃たれたと報じられている。オンライン上の映像によると、使われた木製弾はダボ(合わせくぎ)のような形の木製の棒を小さく削って弾丸状の発射体にしている。コロンバス警察は5月30日のデモで使用したことを認め、同警察では「膝撃ち弾」と呼ばれていると語った。

スティング・ボール弾

デモ参加者たちからは、警察がスティング・ボール弾を使っているとの報告が出ている。爆発すると、あたりに小粒なゴム弾がまき散らされる。ゴム弾と一緒に化学性物質が詰まっていたり、爆発時に閃光と爆音を出したりもする。

方向感覚を喪失させる武器

方向感覚を失わせる武器類としては、閃光弾や閃光発音筒などがよく知られている。閃光や爆音とともに爆発、デモ参加者を失神させたり、方向感覚を失わせたりする。至近距離で受けると、重度のやけどを負うこともある。

通常の手りゅう弾と同じように組み立てられており、閃光や爆音で一時的に目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったり、平衡感覚を失ったりする。一部は破裂して、破片として飛び散ることもある。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・米政権のデモ弾圧を見た西欧諸国は、今度こそアメリカに対する幻想を捨てた
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・黒人男性ジョージ・フロイドの霊柩車に、警官がひざまずいて弔意を示す
・街に繰り出したカワウソの受難 高級魚アロワナを食べたら...


20200616issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月16日号(6月9日発売)は「米中新冷戦2020」特集。新型コロナと香港問題で我慢の限界を超え、デカップリングへ向かう米中の危うい未来。PLUS パックンがマジメに超解説「黒人暴行死抗議デモの裏事情」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、2.7万件減の19.1万件 3

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減との報

ワールド

トランプ氏、USMCA離脱を来年決定も─USTR代

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    白血病細胞だけを狙い撃ち、殺傷力は2万倍...常識破…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中