最新記事

香港

香港の自由にとどめを刺す中国、国際社会はどう反応するのか

2020年5月25日(月)12時05分
ジャック・ヘーゼルウッド

全人代の会場に姿を現した習近平(シー・チンピン)国家主席 CARLOS GARCIA RAWLINS-REUTERS

<全人代で明らかになった、香港の統制を強める法制度。今年9月に予定されている立法会選挙も大混乱に陥りかねない。旧宗主国イギリスは歯切れが悪いが、英政府にできることもある>

2015年、未来の香港を舞台にした低予算のディストピア映画が作られた。向こう10年の間に、警察が反体制派に容赦なく暴力を振るい、子供たちが中国共産党のイデオロギーに洗脳され、人々はいい仕事に就くために北京語を学ばなくてはならなくなるというストーリーだ。『十年』という映画である。

それから5年もたたずに、現実はぞっとするくらい、この映画に近づいている。最悪の未来図だったはずのストーリーが香港の現実になりつつあるのだ。

昨年来、香港の警察は反体制派に好き放題暴力を振るうようになった。民主活動家や政治家が事実無根の容疑で逮捕されるケースも相次いでいる。

そしてついに、香港の自由にとどめが刺される日がやって来るのかもしれない。5月21日、中国政府が香港に厳しい治安維持法制を導入する方針を明らかにしたのだ。

翌22日から始まる中国の国会、全国人民代表大会(全人代)の議題の1つとして、香港で「国家の安全を守る」ための法制度が審議されることが発表された。国家分裂や国家転覆を狙う行為を禁じる内容になるというが、法律の解釈は中国指導部の胸一つになりそうだ。

このタイミングは偶然でない。中国政府は、新型コロナウイルス危機を利用して国際社会での影響力を強めようとしているだけでなく、香港への締め付けも強化しようとしている。

いま香港では、感染拡大防止策として公共の場での8人を超す集会が禁止されているため、直ちに反対派が大規模な抗議行動を行うことが難しい。そもそも、多くの市民は感染を恐れて大規模な集会に参加することに及び腰になっている。

それでも、香港の民主派の怒りは冷めず、そのうちに大規模な抗議行動が再び始まるだろう(実際、5月24日には数千人が参加する抗議デモが開かれ、警察は参加者に向けて催涙ガスを噴射した)。今回の事態は、香港の多くの民主活動家が何よりも恐れていたことだ。過去に例のない「反抗の夏」がやって来る。

今年9月に予定されている立法会(議会)選挙も大混乱に陥りかねない。昨年11月の区議会(地方議会)選挙では民主派が地滑り的な勝利を収めたが、立候補を禁じられた著名活動家は黄之鋒(ジョシュア・ウォン)だけだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン

ワールド

トランプ氏、ウクライナに合意促す 米ロ首脳会談は停
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中