最新記事

感染症

もうすぐ冬到来の南米 大気汚染で新型コロナ致死率上昇の恐怖

2020年5月8日(金)18時45分

南半球でこれから冬を迎える南米諸国は、気温の低下だけではなく薪ストーブによる大気汚染によって、新型コロナウイルス感染症の犠牲者が一段と増えると懸念されている。写真は4月20日、チリのサンチャゴで撮影(2020年 ロイター/Ivan Alvarado)

南半球でこれから冬を迎える南米諸国は、気温の低下だけではなく薪ストーブによる大気汚染によって、新型コロナウイルス感染症の犠牲者が一段と増えると懸念されている。

チリでは人々が自宅待機を求められる中で寒さが訪れようとしており、冬場の大気汚染の一大要因である薪ストーブ利用が急増する見通しだ。

さらに米ハーバード大学がこの4月に公表した研究論文によると、有害な微粒子による大気汚染のひどい地域では新型コロナ感染症による致死率が高くなる。

ドイツのハレ・ビッテンベルク・マルティン・ルター大学が同月公表した論文では、フランス、スペイン、ドイツ、イタリアの新型コロナ死者の78%は、自動車や火力発電所が排出する窒素酸化物による大気汚染が最も深刻な5地域に集中していた。

南米で最も経済が発展した国に入るチリは、ウイルス検査の徹底、早期の休校や企業活動の休止、隔離措置などにより感染拡大を抑え込んだとして、これまでのところ世界から賞賛を浴びた。

同国で確認された感染者数は1万4000人超、死者数は200人超。ピニエラ大統領は前週、学校やショッピングモールなど部分的な社会経済活動の再開に言及した。

しかし、裕福な住民が休暇先の外国からウイルスを持ち帰ると、そうした住民の住む地域から、より貧しく、人口が過密で、大気が汚染されている地域に感染が拡大。感染者数は今後、急増する恐れがある。公共医療機関は冬場はただでさえ負荷がかかるため、コロナに対応し切れなくなるかもしれない。

チリの地形はもともと、壮大なアンデス山脈が汚染物質の拡散を遮断、閉じ込める形になっている。2019年の世界大気質報告書によると、世界で最も大気が汚染された10都市中、実に8都市がチリにあった。

スモッグで悪名高かった首都サンティアゴの空は、今は交通量の急減で澄みわたっている。しかし同国環境省によると、南部で起きる大気汚染の95%は薪ストーブを原因としたものになるという。

最も大気汚染の深刻なアラウカニア州パドレ・ラス・カサスとテムコの両都市は、サンティアゴの南方720キロメートル付近に位置。保健省のデータによると、この地域はこれまで、首都圏に次いで新型コロナの感染者数が多い。一方で同州のコロナ致死率は2.6%と、サンティアゴの1.2%を上回る。先住民が多く住み、貧困層が比較的多い地域だ。

大気汚染の同国専門家は、自宅待機措置、失業者の増加、厳冬予報という「完璧な条件」がそろっているため、これから安い薪を使った暖房が増えると予想する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪CPI、第1四半期は前期比+1.0% 予想上回る

ビジネス

米ロッキード、1─3月業績が予想超え 地政学リスク

ワールド

原油先物は上昇、米原油在庫が予想外に減少

ワールド

ノルウェー、UNRWA支援再開呼びかけ 奇襲関与証
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中