最新記事

生物

4万年前の線虫も......氷河や永久凍土に埋もれていた生物が温暖化でよみがえる

2020年5月3日(日)11時33分
松岡由希子

シベリアの永久凍土で採取された4万年前の線形動物が活動を再開した The Siberian Times

<自然環境の変化で多くの生物が絶滅するおそれがあるいっぽうで、永久凍土の中で長年休眠していた生物がよみがえる例が確認されている......(2019年7月掲載)>

国際連合(UN)は、2019年5月に発表した報告書で「自然環境が減少し、生物多様性が破壊されることで、今後数十年のうちに、およそ100万種の生物が絶滅するおそれがある」と警鐘を鳴らしている。その一方で、近年の研究では、氷河や永久凍土の中で長期間にわたって休眠していた生物がよみがえる例が確認されている。

南極で1600年前のコケが再生した

2013年6月13日に学術雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で公開された研究論文によると、加アルバータ大学の研究チームが、カナダ最北部エルズミア島で融解がすすむティアドロップ氷河において、1550年から1850年までの小氷期のものとみられるフトヒモゴケなどのコケ植物を採集した。

採集したコケ植物の多くは黒く変色していたものの、緑の部分も確認されている。適温に保たれた日当たりのよい大学の研究室に試料として持ち帰り、養分豊富な土壌に茎や枝の組織を移植したところ、およそ400年にわたって氷に埋まっていたコケ植物が再生した。

2014年3月には、英国南極研究所(BAS)の研究チームが、南極のシグニー島の永久凍土に埋もれていたコケ植物を再生させることに成功した。このコケ植物は1533年前から1697年前のものと推定されている。

この研究論文の責任著者である英国南極研究所のピーター・コンヴェイ博士は、米紙ワシントン・ポストの取材に対し、「永久凍土の環境は非常に安定しており、凍結と融解の周期変化やDNA損傷をもたらす放射線など、地表でのストレスからコケ植物を隔離する。数百年前のコケ植物が再生したことから、生物が氷河期を耐えるうえで、氷河や永久凍土が役立っているのかもしれない」と述べている。

matuoka0711b.jpg

再生した1500年前のコケ(P. Boelen/BAS)

シベリアで3万年前から4万年前の線虫も活動を再開

より古代の多細胞生物が、長い年月を経てよみがえった例もある。2018年7月に公開された研究論文によると、露モスクワ大学や米プリンストン大学らの共同研究チームがシベリアで実地調査を実施。北東部のコリマ低地で更新世の永久凍土の堆積物から3万年前から4万年前の線形動物(線虫)を採集し、室温20度の研究室で育てたところ、活動を再開させたという。

環境破壊や地球温暖化によって多くの生物が絶滅の危機にある一方、極地では、コケ植物や線虫、微生物など、氷河や永久凍土の中で長年休眠していた生物たちがよみがえっている。これらは、生物が持つレジリエンス(困難な状況でもしなやかに適応して生き延びる力)を示すものとして注目されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中