最新記事

アメリカ社会

夜更けの街で酔っ払いを乗せて──ライドシェア運転手の告白

The Drunk Men I Drive Around Every Night

2020年4月4日(土)15時30分
ピーター・ジャクボウィッツ(リフト運転手、ライター)

深酒はドメスティックバイオレンス(DV)や病気など、さまざまな問題と関係がある。酔っぱらいを毎晩のように乗せていると、彼らを助けるつもりでやっていることが、逆効果になっている気がしてならない。

私は決して、「深夜のヒーロー」などではない。

数カ月前、リフトは安全意識を啓蒙する動画を運転手に視聴させた。大半は運転手を不快にさせる発言をしたり、運転手の体に触れてきたりする乗客への対応についてだった。私は経験がなかったが、男性運転手のほうがその手の被害に遭いにくいのだろう。

動画を見たすぐ後に、ゲーリーを乗せた。何日も飲み続けているような臭いを放っていた。小さなスーツケースが1つ。ネバダ州に引っ越すから駅に行くと言った。

女性運転手は寄越すなと、リフトに「便箋5枚」の手紙を書いたんだ――彼はとりとめもなく話し始めた。

「彼女は、目的地に着く前に降りろと言った。俺が触ったから、だとよ。本当に道端に置き去りにされた。辺りは真っ暗だ。俺は絶対に触ってない。だから、もう女の運転手は嫌だと言ってやった」

「触ったかもしれないな。覚えていない。酔っぱらっていたからな。彼女は『ファザコン』だったんだよ」

そして、自分は「こんなふうに」触っただけだと言いながら、私の肩に手を伸ばそうとした。それを見て、私は言った。「私に触ったら降りてもらいます。今、ここで」

真っ暗な道端に彼を置き去りにしたら、どんなにせいせいしただろう。

私はユニオン駅でゲーリーを降ろした。その夜はもう少し車を走らせた。

©2019 The Slate Group

<本誌2020年3月31日号掲載>

cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=

ワールド

EU、27年までのロシア産ガス輸入全面停止へ前進 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的、と元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中