最新記事

感染症

塀の中の新型コロナウイルス感染実態 米刑務所、次々「釈放」の波紋

2020年4月4日(土)08時26分

一方で、釈放の動きに反発する団体もある。犯罪被害者の権利を擁護する団体マーシーズ・ローは、釈放前に被害者に通知すべきとして批判している。だが、これでは収監者の釈放プロセスが数週間あるいは数カ月遅れることになりかねない。

ニューヨーク、ロサンジェルス、ヒューストンその他主要都市の当局者は、釈放しているのは暴力性を伴わない軽微な犯罪の受刑者だけだとしている。

ニューヨーク市はウイルスの封じ込めを急ぐ中で先週末以来、約450人の収監者を釈放した。すでに新型コロナによる死者は全世界で2万8300人を超え、そのうち2050人以上は米国で死亡している。

拘置制度の独立した監視機関であるニューヨーク市の矯正理事会は、釈放される可能性がある収監者は約2000人としている。50歳以上、身体虚弱で、暴力性のない軽微な犯罪による収監者などである。市はウイルス検査を受けた収監者の数については公表を控えている。

27日、ニューヨーク州政府は、ニューヨーク市の管轄下にある拘置所の400人を含め、州全体で1100人の軽微な犯罪者を即時釈放の対象に指定した。市庁の広報官コルビー・ハミルトン氏は、「さらに数百人が近日中に釈放されるだろう」としている。

「何の防御措置もない」

米国は、世界のどの国より「塀の中」の人口が多い。米国司法統計局によれば、収監者数は2017年の時点で230万人に迫り、そのうち約150万人が州・連邦刑務所、さらに74万5000人が市や郡などの拘置所に収監されている。

23日にライカーズ島拘置所から釈放された収監者によると、施設内では体調の悪い者も健康な者も、区別なく混在している場合が多かったという。彼がいた区画で収監者1人、刑務官1人が陽性と診断されて以降、2人用の監房で過ごす時間が長くなったという。だが、薬物中毒治療薬を毎日受け取るために、医務室の窓口に他の収監者と並ばなければならなかった。

匿名を条件に取材に応じた32歳の収監者は、「身を守るための措置は何もなかった」と話す。「周囲とは距離を置きたかったが、それは不可能だった」

ニューヨーク市矯正局は、感染者が出た区画の収監者に対するマスクの配布、収監者間の距離確保の推進、監房の清掃、石鹸の支給など、感染拡大に対応するための措置を取ってきたと主張する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米CIA、中国高官に機密情報の提供呼びかける動画公

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中