最新記事

感染症対策

新型コロナウイルス対策は公務員限定で給与減や帰省禁止? インドネシア、後手に回る政府の対応に批判の声

2020年4月3日(金)21時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

帰省で移動した場合、14日間の検疫を受けさせることも検討されている。 KOMPASTV / YouTube

<世界でもっとも多くのイスラム教徒を抱える国は、断食月明けの民族大移動による感染爆発をどう防ぐかに直面している>

新型コロナウイルスの感染者拡大に政府や地方自治体の対策が追いつかず、感染者数、死者数ともに上昇の一途をたどり、約9%という高い死亡率になっているインドネシア。危機的状況を緩和するための対策によって、国家公務員や地方公務員が「帰省禁止」や「給与カット」などの厳しい事態に直面しようとしている。

いずれもコロナウイルス対策に回す財源確保や、都市部から地方への感染拡散防止から取られる「公務員対策」だ。公務員だけが対象となっていることへの不満も出る一方で、民間企業の労働者などからは「税金で仕事をしている以上当然だ」という声があがるなど世論が二分される状況となっている。

民族大移動の長期休暇となる帰省

3月30日、チャヒヨ・クモロ国家行政改革相は5月25日前後に予定されるイスラム教徒の断食月明けの大祭である「レバラン」に伴う大型連休に国家公務員が実家などに帰省することを禁止する方針を明らかにした。

レバラン休暇は通常1週間から10日間という1年の中でも最大の長期休暇で人口約2億6000万人のインドネシア人の約2000万人が帰省(ムディックと称する)や旅行に出かけるのが通例の「民族大移動」とされ、日本で言えば「盆と正月が一度に来たような状況」となる。

公務員はもちろん民間企業の労働者も休暇となり、学校も外国企業も休業となる。人口の約88%を占めるイスラム教徒に限らず、全ての宗教の国民が休暇を取ることから、外国人の家庭で働く家政婦、運転手、警備員なども一斉に帰省する。このため、在留外国人もこの時期に国内外の旅行や母国への一時帰国をするケースが多く首都は閑散とする。

この時期の国内外の航空券、鉄道・長距離バスの乗車券はすでに半年前から売り切れ状態となっている。

ところが今年は新型コロナウイルスの感染拡大から、政府は「今年のムディックは帰省せず、現在の居住地で過ごすことが望ましい」と訴えている。しかし都市封鎖や外出禁止令といった強制力を伴う措置を講じていない現状では「帰省を禁止することは事実上不可能」との判断が政府部内でも強く、「それならばせめて国家公務員だけでも禁止しよう」となったとみられている。

ルフト・パンジャイタン調整相(海事投資担当)も4月2日に「ムディックはコロナウイルスを都市部から地方に拡散することになり、帰省先の実家などで家族や親せきに死者が出る可能性がある。だから今年は思いとどまってほしい」と民間企業の労働者や一般国民にも帰省による移動を控えるよう呼びかけている。

インドネシアの帰省で最も多いのが自家用車やバイクに複数人が乗って土産物などを満載した形での移動だが、これは主要道路や高速道路で検問を実施して監視する以外には防ぐことが実質的に不可能であり、「国家公務員に帰省を禁止したところでどこまで実効性が伴うかは疑問だ」との指摘もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ安全保障に欧州主導の平和維持部隊 10カ

ビジネス

米ボストン連銀総裁、FRB利下げ支持も「ぎりぎりの

ビジネス

米NY連銀総裁「FRBは今後の対応態勢整う」、来年

ビジネス

カナダCPI、11月は2.2%上昇で横ばい コアイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中