最新記事

家族

都市封鎖下のNYラブストーリー 近づく妻との最期

2020年4月19日(日)13時17分

てんかんの発作、そしてアルツハイマー病

1994年、彼らは中国から養女を迎えた。当時1歳だったローレルさんである。ロイスさんは子育てに没頭した。

98年の母の日、きれいな筆記体で書かれた日記で、ロイスさんは喜びを爆発させている。「今日は、本当に素晴らしい朝で始まったことを書いておかなければ」 4歳のローレルさんが母親のベッドまで、チョコレートをかけたドーナツとホットコーヒーという朝食を持ってきてくれた、と彼女は書いている。

ロイスさんは、日記を書く理由の1つとして「いつの日か娘が読めるように」と書いている。「ローレルの生い立ちについて、私ができるだけ記録しておくことはとても大切だ。家族のエピソードや病気、災害など、彼女を特定の時代、場所、個人に繋げてくれるような絆は、中国の家庭とのあいだには何もないのだから」

ロイスさんには、スタジオでゴールドのジュエリーを作るという仕事もあった。だが2000年代初頭には、その後を予感させる微かな兆しが現われていた。夜間にてんかんの発作を起こしたことが1回あり、忘れっぽくなっていった。

2008年、ロイスさんはてんかんであることがわかり、2010年初めにはアルツハイマー病と診断された。

「すべてが変わった」とハワードさんは言う。「だが私は単に創作生活を調整しただけで、絵を描くときにロイスと一緒にいるようにして、彼女の介護をした」

父を気遣う娘

ロイスさんがアルツハイマー病の診断を受けてから数年、ハワードさんは彼女と共に家にいることが多くなった。症状が進むにつれて、入浴や食事、トイレの使用が困難になっていった。2015年に介護施設に移る前、ハワードさんは最後にロイスさんをパリに連れて行った。この旅行のときの写真には、レストランで空のワイングラスを持つロイスさんが映っている。

「その頃には、1杯飲んだか2杯飲んだかも忘れるようになっていた」とハワードさんは言う。

ハワードさんは粘り強くロイスさんについての情報を得ようとしてきた。

今年3月末、彼はニューパルツ・センターの医師から心強いメールを受け取った。その1節には、「今日ロイスさんを診察し、よい状態だったことをお知らせしたいと思います。彼女は朝食を完食し、車椅子で立ち上がりました」と書かれていた。

その後、気掛かりな動きもあった。ハワードさんは、嚥下機能に問題のあったロイスさんが最近の食事で3回嘔吐したことを知った。それから地元メディアの報道で、近所の高齢者施設内で新型コロナウイルスによる死亡例があったこと、同じ地域の他2施設でもそれぞれ最初の感染例が報告されたことに気づいた。

また、ドイツ、スイスの美術館・画廊からは、彼の作品展が中止されたとの連絡があった。世界中で美術館は閉鎖されている。人々が同じ空間で美術を鑑賞することはあまりにも危険なのだ。

「こうしたことで思い悩んではいない」とハワードさんは言う。「ただ、この呪わしいウイルスを制圧したい」

介護施設に移ってから、ロイスさんは衰弱の段階に入った。当時、介護スタッフはハワードさんに、ロイスさんはあまり長くは生きられないだろうと告げた。だが驚いたことに、彼が頻繁に訪問するあいだに、ロイスさんは何度か死の瀬戸際から回復することができた。

「彼女がどれほど粘り強いか、誰も分かっていなかったと思う」と彼は言う。

一部の介護施設は、外部からの訪問禁止の例外を少なくとも1つだけ認めている。入居者に死が迫ったとき、家族1人が最後に訪問することができる。だがハワードさんは、そのような形での訪問には何の興味もない、と言う。彼が訪れるのは、ロイスさんを生き延びさせるためなのだから。

(翻訳:エァクレーレン)

Joshua Schneyer

[ニューヨーク ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・年代別:認知症のリスクを減らすために注意すべき危険因子
・緑内障などの加齢に伴う眼疾患とアルツハイマー病との関連が明らかに
・孤独感の持ち主は認知症になる確率が1.64倍
・中年の運動不足が脳の萎縮を促す


202003NWmedicalMook-cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

SPECIAL EDITION「世界の最新医療2020」が好評発売中。がんから新型肺炎まで、医療の現場はここまで進化した――。免疫、放射線療法、不妊治療、ロボット医療、糖尿病、うつ、認知症、言語障害、薬、緩和ケア......医療の最前線をレポート。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル、ユーロ・スイスフランに対し上昇

ワールド

米財務長官、ベネズエラ制裁の選択的解除と石油資産監

ワールド

グリーンランド巡るトランプ氏発言、欧州は真剣に受け

ビジネス

FRB追加利下げ限定的、インフレ率は目標上回って推
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 5
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 6
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 7
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 8
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 9
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 10
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 8
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 9
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中