最新記事

新型コロナウイルス

緊急公開:人類と感染症、闘いと共存の歴史(全文)

MOVING TOWARD PLANETARY HEALTH

2020年3月30日(月)18時50分
國井修 (グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

将来に向けて、日本は何をすべきだろうか。今回のような危機が起こったときに出てくるのが、日本にもCDCをつくるべきだとの議論だ。CDCとは、ジョージア州アトランタに本部を置く米国疾病対策センターである。

感染症対策以外にも、慢性疾患予防・健康増進、出生異常・発達障害などさまざまな保健分野をカバーし、10以上の研究所・センターを持つ。関連事業も含めた予算は1兆円を超え、日本の国立感染症研究所の100倍以上。職員は1万人以上で、国立感染症研究所の約30倍近くもいる。

世界各国に事務所を抱え、低中所得国の感染症対策の支援も行っている。CDCの実力で驚くべきなのは、データ情報の収集・分析力、いつでもどこでも現場に駆け付けて対策を行う機動力、大規模な調査・実践・人材育成に費やせる資金力である。

人材育成では世界的に有名なEIS(Epidemic Intelligence Service)という2年間の専門家養成コースがあり、これまでに3000人以上を育ててきた。

現在の日本の国家予算でCDCと同じインフラ・人材を整えることは困難だろう。可能なのは、国立感染症研究所や国立国際医療研究センター、国立保健医療科学院などの国立の関連組織・施設に加えて、長崎大学熱帯医学研究所などの大学・研究機関、保健所などの行政組織、企業が持つ研究センターなどを有機的につなげることだ。

また、今回の世界への社会的・経済的インパクトに鑑みて、将来のバイオテロなどの危険性も考えなくてはならず、日本の自衛隊、その医務官との円滑な連携・協力も強化する必要がある。

米国にはCDC以外に、米国陸軍感染症研究所(USAMRIID)などのバイオテロを含む特殊災害・緊急事態に備えて研究・人材育成、有事の時に準備・計画をしている機関がある。さまざまな「最悪のシナリオ」を想定しながら、日本国内の関係機関・組織を強化、そしてつなげる必要がある。

心配なのが日本国内の人材だ。世界で多くの感染症が流行しているが、そこで働く日本人は少ない。危機管理は頭で考えて準備・計画するだけでうまく実践できるものではない。現場で場数を踏んだ専門家、オペレーションの分かる管理者が必要だ。

最近、国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP)や厚労省の感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラムなどを通じて、日本人専門家の養成も行っているようだが、彼らを実際にどのように有効活用するか、どうスキルアップさせるかも考える必要がある。

また、このような対策に必要な「専門性」にも様々なものがあり、単に「感染症の患者が診られる」医師だけで対策はできない。感染症疫学、公衆衛生の専門家はもとより、リスク・コミュニケーション、リスク・マネジメント、ロジスティクス、情報管理などの「本物のプロ」を平時から同定し、またそれが不足するのであれば育成し、有事にどのように活用するかを計画しておく必要がある。

今回、日本の状況を聞くと、必ずしも初動の段階から「本物のプロ」が活用されておらず、専門家会議の立ち上げも必ずしも早かったわけではないようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中