最新記事

医療

イタリア、新型コロナウイルスがもたらす最悪の医療危機 現場に「患者選別」の重圧

2020年3月22日(日)08時33分

だがICUでの治療を必要とする患者がこれだけ増えると、どの患者が生き残る可能性が高いのか医師が選別を求められる頻度は上がり、判断も急がされる。こうした「トリアージ」(重症度判定)は、イタリアのようなカトリック中心の国では特に悩ましい。イタリアでは医師の幇助による安楽死は認めらないし、また欧州で最も高齢化が進んでおり、欧州統計局(ユーロスタット)によれば、65歳以上の高齢人口はほぼ4人に1人に達している。

48歳の麻酔医であるレスタ氏は、「これほど厳しい判断には馴染みがない」と語る。

「賭け」には出られない

イタリアの医師たちによれば、呼吸障害を示す高齢のCOVID-19患者はあまりにも多く、回復の見込みが薄い患者に多大の時間と労力を割ける余地はない。

アルフレード・ビジオリ(Alfredo Visioli)さんも、そうした患者の1人だ。クレモナ(Cremona)県から来た83歳のビジオリさんは、忙しく活動的な生活を送っており、家では家族からプレゼントされたジャーマンシェパード犬「ホラフ(Holaf)」と暮らしていた。孫のマルタ・マンフレディ(Marta Manfredi)さんによれば、彼は2年前に脳卒中を起こした79歳の妻イレアナ・スカルパンティ(Ileana Scarpanti)さんの介護をしていたという。

最初のうちは断続的に発熱するだけだった。だが2週間後にCOVID-19との診断を受け、肺線維症を起こした。肺の組織が損傷を受けて傷痕が生じる症状で、呼吸が次第に困難になっていく。

クレモナは、ロンバルディア州にある人口約7万3000人の街である。この街の病院の医師たちは、ビジオリさんに挿管処置を行うべきかどうか判断を迫られた。

「挿管しても効果はない、と彼らは言った」とマンフレディさんは言う。ビジオリさんは鎮静剤による眠りについたまま、亡くなった。

妻のイレアナさんも感染がわかり入院中だ。しかし、誰もまだ彼女に夫の死を伝えていない。

「以前だったら『患者たちにもう何日かチャンスをあたえてあげよう』と言っただろう。しかし、いまはもっと厳格にならざるを得ない」とジャコモ・グラセッリICU室長は語った。

病院のシステムを組み直し

こうした患者の「トリアージ」は病院外でも生じている。

13日、ロンバルディア州のすぐ外側に位置する都市フィデンツァ(Fidenza)は、地元病院を19時間にわたって閉鎖した。病院はCOVID-19患者であふれており、病院スタッフらは21日間休みなしで働いていた。閉鎖は病院の機能を維持するための措置だったが、一部の人々が「自宅で死亡する」ことも意味していた、とアンドレア・マッサーリ(Andrea Massari)市長は言った。

新型コロナウイルスが初めてイタリアで確認されたのは1月だが、感染拡大が始まったのは2月、ミラノの南東約60キロ(40マイル)にあるコドーニョという小さな街だった。一部の医療専門家は、ドイツからイタリアを訪れた旅行者によって持ち込まれた可能性があると考えている。

イタリア政府は、迅速に北部地域の封鎖にとりかかった。当初はロンバルディア州の街10カ所、ベネト州の街1カ所だった。だがこれではウィルスの拡大は止まらなかった。1週間以内に、888人が陽性と診断され、21人が死亡した。患者数は急激に増加した。最初にウィルスに襲われたのは小さな街で、地元の小規模な病院はただちに窮地に陥った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、バイナンス創業者に恩赦 仮想通貨推進鮮

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、4万9000円回復 米ハ

ワールド

英国王とローマ教皇、バチカンで共に祈り 分離以来5

ワールド

EU首脳、ウクライナ財政支援で合意 ロシア資産の活
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中