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北朝鮮

「多ければ半数が餓死予備軍」北朝鮮、新型コロナ鎖国で危機

2020年3月19日(木)10時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

食べるものが底をついた「餓死予備軍」の家庭が増えている KCNA-REUTERS

<感染防止策として打ち出された国境閉鎖が、食料不足に拍車をかけている>

「コメ収穫量は前年比13%減少136万トン」(米農務省)

「全人口の約4割の1010万人に緊急食糧支援が必要」(国連人道問題調整事務所)

「北朝鮮は外部からの食糧支援が必要な44カ国の一つ」(国連食糧農業機関)

北朝鮮は農業生産量の増大を目標に掲げているが、国際社会の制裁による農業資材の不足、度重なる自然災害の影響で農業は不振続きだ。そこに加えて新型コロナウイルス感染防止策として打ち出された国境閉鎖が、食糧不足に拍車をかけている。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、各市・郡の人民委員会(市役所)は「最近の調査によると農民の農場出勤率が目に見えて低下している」として、状況を深刻に受け止めていると述べた。

今月から種まきが始まったが、農民が出勤しないため、作業が進んでいないという。具体的な数字はわからないとした情報筋だが、「概ね9割程度だった出勤率が、半分をなんとか上回る6割程度になっているのではないか」と述べた。

その理由は「絶糧世帯」、つまり食べるものが底をついた「餓死予備軍」の家庭が増えているせいだという。北朝鮮で最も飢えているのは軍の末端兵士たちだとされるが、貧しい農民が置かれた現状も深刻だ。

<参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

北朝鮮の穀倉地帯「十二三千里平野」にある安州(アンジュ)のある協同農場では、全体の5%が既に絶糧世帯となっているが、「この調子なら端境期となる4~5月には2~3割、多ければ半数に達しかねない」と情報筋は危惧している。絶糧世帯が現れる時期は通常3月末から4月初めごろなのに、去年より早いとのことだ。

昨年6月に道内の平城(ピョンソン)で報告された絶糧世帯の割合は1割だったことを考えると、4~5月の時点で少なくとも2割という予想は、昨年と比べても食糧事情が逼迫していることが窺える。

これは、昨年春の渇水に加え、9月の台風13号(レンレン)による被害による収穫量の減少、そこに加えての国境封鎖による物資不足が原因となっており、北朝鮮の農民は二重三重の苦しみを味わっている。

ただし、この情報筋は、北朝鮮の人々が食糧不足に陥ると必ずと言っていいほど思い浮かべる1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」には触れていない。その理由は定かでない。

多くの農民は、営農資材や種籾を購入するために借金をしているが、日々の糧すらままならない状況では、返済など望むべくもない。かくして、農民は食いつなぐために次々と農村を去っていく。そうなれば農場の出勤率はさらに低下し、農業生産量が減少するという悪循環に陥る。

<参考記事:「焼くには数が多すぎる」北朝鮮軍、新型コロナで180人死亡の衝撃

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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