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国民の命は二の次か? 武漢パンデミックを後追いする日本

2020年2月24日(月)09時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

ダイヤモンド・プリンセス号の感染対策の不備を告発した岩田教授(2月18日) KENTARO IWATA/REUTERS

クルーズ船内の集団感染や下船者の陽性反応など日本国内の感染拡大は、「初期の武漢」を彷彿とさせる。世界を恐怖に追い込んだ真犯人が習近平なら、日本を恐怖に追い込んでいるの安倍政権だ。国民の命は二の次か?

初期状態の武漢

初期と言っても、初めて原因不明の肺炎が発生した時ではなく、1月20日に習近平が「重要指示」を出して以降のことだ(これに関しては1月24日付のコラム「新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?」を参照いただきたい)。

重要指示が出ると武漢市民は怯(おび)えて、それらしき症状のある者は病院に殺到し、高熱が出ている老人は救急車を呼ぼうとした。しかしこのとき武漢市には救急車が50台ほどしかなくて、また病院も病室も少なく、患者と思われる人たちは寒空の中5時間以上も待たされ、交差感染が起きてパニックになっていた。

当初は医者の数も足りなく、時間のかかるPCR(Polymerase Chain Reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)検査(微量の検体を高感度で検出する検査方法)をしないと新型コロナウイルス肺炎だとは診断されなかったので、多くの患者は自宅隔離を余儀なくされた。

しかし突貫工事で2月5日には最初の方艙(ほうそう)病院(野戦病院のような緊急治療用コンテナ隔離病院)が出来上がり、今では武漢市に13ものコンテナ病院があるだけでなく、人民解放軍の医療部隊をはじめ全国から3.2万人の医療スタッフを武漢に派遣している。

また今ではPCR検査だけでなく、CT検査で肺に影があれば患者の中に入れるようになったので、患者の数は増えたものの、肺炎に罹っているか否かの診断をすぐに出してくれるようになっている。武漢にいる私の知人も、2,3日ほど前に心配なので病院に行ったら、すぐに診察してくれて、問題がないと言われたそうだ。

日本の場合

これに比べて日本の場合はどうなっているかというと、2月16日に開催された専門家会議で新型コロナウイルスへの感染を疑われる人が帰国者・接触者相談センターに相談する目安について、「風邪の症状や37.5以上の発熱が4日以上(高齢者などハイリスク者は2日以上)とする」と決めたと、17日に厚労省が発表した。

37.5度以上の熱がある状態で4日間も「自分はコロナ肺炎に罹っているかもしれない」という不安に耐えるというのは相当の心理的負担と体力の消耗があり、その間、日常生活や社会生活にも様々な悪影響が出て来る。専門家会議では「水際対策から重症化や感染拡大を防ぐ医療体制整備の構築へと舵を切った」とのことだが、2月20日付のコラム<習近平国賓訪日への忖度が招いた日本の「水際失敗」>で述べたように、水際で決定的な失敗をしているのに、さらに重篤化に関しても後手後手に回る危険性を秘めている。

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