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新型肺炎:どこまで広がるのか

中国一党独裁の病巣が、感染拡大を助長する

CHINA DIDN’T LEARN FROM SARS

17年前のSARS危機でぶざまな対応を見せた中国が、なぜ進歩していないのかという厳しい疑問も出てくるだろう。2002~03年にSARSが中国本土と香港を襲った後、中国政府は同様の危機を繰り返さないために、さまざまな対策を講じてきたはずだ。

ただし、これらは基本的に、中国社会の「ハードの欠陥」に対処するものだった。例えば、疾病の管理と予防における技術的な能力を改善する予算を増やし、緊急対応の法律を制定して、監視体制を構築した。

こうした対策は、中国政府がウイルス性の感染症に効果的かつ積極的に対応する能力を、本当の意味で向上させることはなかった。期待外れなだけでなく、むしろ中国政府に誤った安心感を与えてしまったかもしれない。

そうなった理由は明らかだ。予算の増加や専門家の育成、設備の増強は、確かに役に立つだろう。しかし、技術的な能力の向上を最優先させたことで、中国の官僚制度の最も弱い部分、すなわち「ソフトの欠陥」が見過ごされてきた。

中国全土に最新の研究医療施設が整えられたかもしれないが、実際に公衆衛生の緊急事態に対応する仕組みとしては、スーパーコンピューターを時代遅れで低性能のオペレーションシステム(OS)で動かしているようなものだ。その結果は――見てのとおりだ。

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武漢市長と病院を建設した人民解放軍の副司令官の文書交換式もマスク着用 AP/AFLO

迅速な判断を避ける官僚

中国という一党独裁国家の「ソフトの欠陥」は、政治システムを根本から変えない限り修正できない。秘密主義が蔓延していて、報道の自由や国民に対する説明責任がなく、地方の硬直した官僚制度は、危機に直面しても迅速な判断を下すことを恐れる。

こうした制度的な欠陥は、言うまでもなく、いくらカネをつぎ込んでも直せない。SARSや今回の新型ウイルスのような公衆衛生の危機が起きると、これらの欠陥に阻まれて、中国政府は十分かつタイムリーな行動が取れなくなる。

実際、ウイルスの感染拡大を監視して管理する中国のシステムは、かなり以前から深刻な問題点が指摘されている。

例えば、18年8月に中国でアフリカ豚コレラ(ASF)の発生が確認された際のこと。致死率ほぼ100%という強力なウイルスで、感染した豚を迅速に処分しなければならないが、中国政府はその費用を十分に手当てせず、地方自治体は従来の非効率的な処分を続けた。その結果、感染拡大は制御不能になり、中国の豚の飼育頭数は4割近く減った。

ASFのお粗末な対応について中国政府が責任を問われるべき点は、今回、武漢で感染が拡大し始めた当初の最も重要なタイミングで迅速かつ効果的な対策が取れなかった理由と、ほぼ重なる。

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