最新記事

新型肺炎:どこまで広がるのか

中国一党独裁の病巣が、感染拡大を助長する

CHINA DIDN’T LEARN FROM SARS

2020年2月15日(土)14時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

17年前のSARS危機でぶざまな対応を見せた中国が、なぜ進歩していないのかという厳しい疑問も出てくるだろう。2002~03年にSARSが中国本土と香港を襲った後、中国政府は同様の危機を繰り返さないために、さまざまな対策を講じてきたはずだ。

ただし、これらは基本的に、中国社会の「ハードの欠陥」に対処するものだった。例えば、疾病の管理と予防における技術的な能力を改善する予算を増やし、緊急対応の法律を制定して、監視体制を構築した。

こうした対策は、中国政府がウイルス性の感染症に効果的かつ積極的に対応する能力を、本当の意味で向上させることはなかった。期待外れなだけでなく、むしろ中国政府に誤った安心感を与えてしまったかもしれない。

そうなった理由は明らかだ。予算の増加や専門家の育成、設備の増強は、確かに役に立つだろう。しかし、技術的な能力の向上を最優先させたことで、中国の官僚制度の最も弱い部分、すなわち「ソフトの欠陥」が見過ごされてきた。

中国全土に最新の研究医療施設が整えられたかもしれないが、実際に公衆衛生の緊急事態に対応する仕組みとしては、スーパーコンピューターを時代遅れで低性能のオペレーションシステム(OS)で動かしているようなものだ。その結果は――見てのとおりだ。

magSR0218-com02.jpg

武漢市長と病院を建設した人民解放軍の副司令官の文書交換式もマスク着用 AP/AFLO

迅速な判断を避ける官僚

中国という一党独裁国家の「ソフトの欠陥」は、政治システムを根本から変えない限り修正できない。秘密主義が蔓延していて、報道の自由や国民に対する説明責任がなく、地方の硬直した官僚制度は、危機に直面しても迅速な判断を下すことを恐れる。

こうした制度的な欠陥は、言うまでもなく、いくらカネをつぎ込んでも直せない。SARSや今回の新型ウイルスのような公衆衛生の危機が起きると、これらの欠陥に阻まれて、中国政府は十分かつタイムリーな行動が取れなくなる。

実際、ウイルスの感染拡大を監視して管理する中国のシステムは、かなり以前から深刻な問題点が指摘されている。

例えば、18年8月に中国でアフリカ豚コレラ(ASF)の発生が確認された際のこと。致死率ほぼ100%という強力なウイルスで、感染した豚を迅速に処分しなければならないが、中国政府はその費用を十分に手当てせず、地方自治体は従来の非効率的な処分を続けた。その結果、感染拡大は制御不能になり、中国の豚の飼育頭数は4割近く減った。

ASFのお粗末な対応について中国政府が責任を問われるべき点は、今回、武漢で感染が拡大し始めた当初の最も重要なタイミングで迅速かつ効果的な対策が取れなかった理由と、ほぼ重なる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「国連は存続すべき」、ガザ評議会が代替と

ビジネス

米国株式市場=大幅続落、ダウ870ドル安 グリーン

ビジネス

ネットフリックス、第4四半期売上高が予想上回る 契

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、グリーンランド問題で「米国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 4
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生…
  • 5
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    トランプが「NATOのアメリカ離れ」を加速させている…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 10
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中