最新記事

中国

新型肺炎以来、なぜ李克強が習近平より目立つのか?

2020年2月10日(月)19時11分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

●2020年1月10日:武漢市両会が閉幕。国家衛生健康委員会の専門家チームの一人で北京大学第一医院呼吸・重症学科主任の王広発医師が新華社の取材に対し、「疫病は制御できる」と回答した。これは武漢に視察に行ったときに、武漢政府が「人‐人」感染を示すカルテを隠して、無難なカルテだけを選んで見せたせいである。専門家チーム第一陣は2019年12月30日に武漢を視察している。

●2020年1月17日:湖北省両会が勝利の内に閉幕したと宣言したその日に、浙江省で新たに患者5人発生。それを見た、SARSの時に警告を発した中国最高権威の医学者・鐘南山院士(博士の上の称号)(84歳)が再び警告を発した。そこで国家衛生健康委員会は鐘南山をトップとする「最高レベル専門家チーム」を結成して、武漢入りさせることにした。

●2020年1月18日夜:広東省深センにいた鐘南山は飛行機のチケットが買えないので高速鉄道に乗って武漢に向かった。

●2020年1月19日:鐘南山をリーダーとする最高レベル専門家チームが武漢入り。鐘南山は武漢政府ではなく、医者仲間から病例発信が成された協和医院を視察。一瞬で「人‐人」感染を見抜き、その足で北京に行き国家衛生健康委員会に報告。国家衛生健康委員会主任は孫春蘭国務院副総理に報告。孫春蘭は李克強国務院総理に報告。これら関係者が鐘南山と共に「緊急事態」と判断して、雲南省で「めでたく」春節祝いをしている習近平に報告。こうしてようやく習近平に事態の深刻さを自覚させ、習近平国家主席の名において「重要指示」を出させるに至ったのである。

李克強の働き

これでお分かりだろう。

北京の留守を守った李克強は同日、1月20日にすぐさま国務院常務委員会会議を開催して緊急対策を指示している。李克強の隣りにはなんと、あの鐘南山院士が厳しい顔をして座っていた。

習近平の許可を得ながら行動しているとは思うものの、1月22日には孫春蘭を武漢視察に向かわせたのは李克強だ。

習近平がようやく北京で中共中央政治局常務委員会を開催したのは1月25日で、このとき「新型コロナウイルス肺炎防御抑制領導小組(指導グループ)」の立ち上げを命じ、李克強を組長とした。李克強はその日の内に第一回の指導グループ会議を開催し、27日には「習近平の委託を受けた」と強調して武漢入りした。

これを「危ないことを李克強に任せた、習近平の権力闘争」などと分析する権力闘争論者もいれば、「習近平はよくやっている」と解釈したがる一部メディアもあるが、現実に何が起きているのかというファクトを見なければならない。

そんな習近平が「初動対応の遅れ」などに触れるはずがないのである。

習近平は永遠に新型肺炎の「初動」に関しては封印するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独輸出期待指数、6月は悪化 米関税巡る不透明感で=

ワールド

米政権、メリーランド州連邦地裁を提訴 移民送還の阻

ビジネス

ルネサス、経営目標達成を5年先送り

ワールド

中国、フェンタニル原料を規制対象に追加 米の要求に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 5
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 9
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中