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中東介入を止められないアメリカの悪癖が、中国の台頭を許す

AMERICA’S DEBILITATING MIDDLE-EAST OBSESSION

2020年1月30日(木)11時00分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)

中東をめぐってもトランプの言行不一致は目に余る JONATHAN ERNST-REUTERS

<シェールガス開発によってもはやアメリカは中東に重要な利害関係を持っていないのに、なぜか中東から手を引くことができない>

偉大な国は終わりのない戦争をしない──トランプ米大統領は2019年の一般教書演説で、そう宣言した。

これには一理あった。中東での軍事的混乱は、この地域に介入するアメリカの国力を相対的に衰退させ、中国の一層の台頭を許すことになる。

しかし演説から1年もたたないうちに、トランプはイラン革命防衛隊の実力者ガセム・ソレイマニ司令官の暗殺を命じ、アメリカを新たな戦争の危機に陥れた。常に不安定な中東に干渉せずにはいられないアメリカの性癖がそうさせる。

もはやアメリカは中東に対し、重要な利害関係を持っていない。シェールオイル・ガスの開発によって中東にエネルギーを依存する必要がなくなり、中東からの石油供給を守ることは重要課題ではなくなった。それどころか、アメリカ、中国に次ぐ世界第3の石油消費国であるインドへの原油や石油製品の供給源として、アメリカはイランに取って代わりつつある。

逆にアメリカにとって重要性が増しているのは、国際的な規範に挑戦的な姿勢を示す中国を抑えることだ。そこでオバマ前米大統領は就任早々、外交政策の「アジアへの転換」を打ち出した。

だがオバマは、外交の焦点を中東から中国へ移すことはできなかった。それどころか、このノーベル平和賞受賞者は、シリアからイラク、ソマリア、イエメンに至るまで、多くの場所で軍事作戦を指示した。

トランプはオバマの路線を変えるはずだった。彼は、アメリカが9.11テロ後に中東への軍事介入のため約7兆ドルを費やしていると繰り返し非難した。「死と破壊以外には何もない。おぞましいことだ」と、トランプは2018年に語った。

中国とイランの間で縮まる距離

さらにトランプ政権は、中国を「戦略的な競争相手」と認識し、後には習近平(シー・チンピン)国家主席を「敵」とさえ呼んだ。その上で、中国を抑え、「ボリウッドからハリウッドまで」広がる「自由で開かれた」インド太平洋地域をつくる戦略を打ち出した。

だが毎度のことながら、トランプの行動は発言に即していない。側近には、ポンペオ国務長官やボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当、昨年9月解任)といった筋金入りのタカ派を任命した。

これを踏まえれば、トランプがイランに対して不要な敵対的姿勢を取ったことは驚くには当たらないだろう。トランプ政権はイランへの経済制裁を再開し、追随するよう同盟国に圧力をかけた。昨年5月以降は中東に1万6500人を増派し、ペルシャ湾に空母打撃群を派遣。ソレイマニ暗殺はこの流れのなかで行われた。

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