最新記事

日本

それでも民主主義は「ほどよい」制度だろう

2020年1月21日(火)17時45分
待鳥聡史(京都大学法学部教授)※アステイオン91より転載

民主主義は技術によって代替されるか?

不完全であることが知れわたっているがゆえに修正できることは代議制民主主義の最大の強みであり、それはAIや新技術による代替が困難なのである。したがって、たとえば二院制のうちの第二院がAIの提案に基づいて議論するなど、代議制を部分的に補完することはあっても、全面的な代替案にはなりえない。民主主義が消え去るとすれば、それはAIに敗れることによってではなく、自らの不完全さを忘れるときであろう。

情報分野における技術革新は凄まじい。ここに述べたことも、一〇〇年後には一世紀前の非科学的な思い込みに過ぎなかったと笑われるかもしれない。それどころか、人間に「ほどよさ」を感じさせるナッジの実装などによって、三〇年後には既に時代遅れの見解になっている可能性すらある。しかし、民主主義が広がるはるか以前から、政治は最も人間らしい営みとしての性質、大部分が合理的に決まっていてもわずかな残余が必ず出るという性質を帯びていた。無駄や冗長性が政治を政治たらしめてきた面がある。それが技術によって完全に代替されるかといえば、やはりそうではないように思われるのである。

待鳥聡史(Satoshi Machidori)
1971年生まれ。京都大学大学院法学研究科博士課程退学。博士(法学)。大阪大学大学院法学研究科助教授、京都大学大学院法学研究科助教授を経て、現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『財政再建と民主主義』(有斐閣)、『首相政治の制度分析』(千倉書房、サントリー学芸賞)など。

当記事は「アステイオン91」からの転載記事です。
asteionlogo200.jpg



■お知らせ■
アステイオン91刊行記念講演会「100年後の学問と大学」

池内恵(東京大学先端科学技術研究センター教授)+待鳥聡史(京都大学大学院法学研究科教授)

論壇誌「アステイオン」の編集委員を務める両教授が、100年後の教育・大学について予想しつつ、これからの学問について必要なこと、若い世代に伝えたいことなどを語り合う。

日時:2020年1月24日(金)19:00~20:30
場所:東京大学駒場キャンパス コミュニケーション・プラザ 北館2階 多目的教室4
詳しくはこちら



アステイオン91
 特集「可能性としての未来――100年後の日本」
 公益財団法人サントリー文化財団
 アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BMW、第3四半期コア利益率が上昇 EV研究開発費

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁発足 来年から

ビジネス

中国、40億ドルのドル建て債発行へ=タームシート

ビジネス

トヨタが通期業績を上方修正、販売など堅調 米関税の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中