最新記事

北朝鮮

文在寅の「二枚舌」が許せない......冷たく切り捨てた金正恩

2020年1月9日(木)11時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

文在寅大統領は南北融和路線の継続を表明しているのに…… KCNA-REUTERS

<今年の年頭、韓国・文在寅大統領は北朝鮮の対話の意思を信じて融和路線を継続する意向を示したのに、昨年末に強硬路線への回帰を明らかにした北朝鮮はこれを冷たくスルー>

韓国の文在寅大統領は7日、青瓦台(大統領府)で「新年の辞」を述べ、「金正恩委員長の答礼訪問のための環境が一日も早く整うよう南北が共に努力することを望む」として、金正恩氏の韓国訪問を呼びかけた。

また、「この1年間、南北協力で大きな進展を成し遂げられなかったことは残念」とし、「朝米対話が膠着する中、南北関係の後退まで懸念される今、朝米対話の成功のため努力するとともに、南北協力を一層強化していく現実的な方策を模索する必要性がさらに切実に求められている」と強調した。

金正恩氏は、昨年末に開かれた朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会での報告で、非核化を巡る米国からの対話の呼びかけを「時間稼ぎ」だと非難。「世界は遠からず、朝鮮民主主義人民共和国が保有することになる新しい戦略兵器を目撃することになるであろう」と宣言するなど、強硬路線への回帰を鮮明にしている。

文在寅氏はそれでもな、金正恩氏の対話意思を信じ、従来通り融和路線を進む意向を示したものと言える。

しかし、肝心の金正恩氏には「その気」はうかがえない。北朝鮮の対韓国宣伝サイトである「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」は6日、「真実は隠せないものだ」と題した論評で、文在寅氏を「南朝鮮青瓦台(大統領府)の現当局者」とほぼ名指しし、ボロクソにこき下ろした。

論評は、「米国の対朝鮮敵視政策に便乗して北侵合同軍事演習を強行して先端攻撃兵器を持ち込み、情勢を悪化させてきたのは、他でもない南朝鮮当局である。(中略)これはまさに現南朝鮮当局者の二重的思考と行動が招いた悲劇である」と主張。また「南朝鮮当局は我田引水の詭弁を並べるのではなく、現実をまっすぐ見て恥知らずな無駄口をやめた方がよい」と切り捨てた。

ここで言われている「二重的思考と行動」というのはすなわち、日本語で言うところの「二枚舌」だ。外交の様々な場面で言動の不透明さを指摘されてきた文在寅氏だが、このような烙印を押した以上、北朝鮮が本気の南北対話に出てくるとは思えない。

<参考記事:「何故あんなことを言うのか」文在寅発言に米高官が不快感

そもそも、昨年末の党総会での金正恩氏の報告は7時間以上に及んだとされているが、朝鮮中央通信の報道を見る限り、南北対話に言及した内容は見当たらない。この「冷たいスルー」こそが、金正恩氏の文在寅氏に対する認識を、何より如実に物語っているように見える。

<参考記事:「韓国外交はひどい」「黙っていられない」米国から批判続く

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中