最新記事

事件

フィリピン、資金難のイスラム過激派が「誘拐ビジネス」 インドネシア人漁民5名拉致

2020年1月31日(金)20時02分
大塚智彦(PanAsiaNews)

イスラム過激派アブ・サヤフに誘拐されたインドネシア人漁民 KOMPASTV / YouTube

<フィリピン国軍との激しい戦争に敗れたイスラム過激派は、海賊に成り下がった?>

インドネシアのカリマンタン島(マレーシア名ボルネオ島)東北部、フィリピン南部に接続するマレーシア・サバ州沖海域で操業中だったインドネシア漁船が正体不明の武装集団に襲撃され、インドネシア人漁民5人が誘拐される事件が起きた。インドネシア海上警備当局やマレーシア海上治安当局、フィリピン海軍などが合同で捜索活動を続けているが、これまでのところ発見に至っていない。

同海域ではこれまでにもインドネシア漁民が誘拐される事件が発生しており、その大半がフィリピン南部で武装闘争を続けるイスラム教テロ組織「アブ・サヤフ」による犯行であることなどから、今回も同グループによる身代金目当ての誘拐事件とみて、フィリピン軍はアブ・サヤフが主に活動拠点としている南部ホロ島やバシラン島などに部隊を投入するとともに周辺住民からの情報収集活動を通じた捜索活動を強化している。

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」やフィリピンのメディアが伝えたところによると、マレーシアの治安当局は16日午後8時ごろサバ州沖タンビサン島近くのマレーシアの領海内海域でインドネシア漁船が襲撃され、漁民が誘拐される事件が起きたと、18日に明らかにした。

報道などでは銃で武装し覆面をした6人組が船で近づき、インドネシア漁船(乗員8人)に乗り込み、船ごとフィリピン方向へ連れ去り、翌17日船長らを除く3人が漁船ごと解放されマレーシア警察に届け出て、誘拐事件の詳細が明らかになった。

マレーシア、フィリピン両国の海上治安関係者は手口や犯行海域、解放された乗組員の証言などから犯行組織はアブ・サヤフに間違いないとの見方を強めている。

資金不足のアブ・サヤフが誘拐ビジネス

アブ・サヤフは米政府とフィリピン政府によって「テロ組織」の指定を受けており、2017年5月には南部ミンダナオ島の南ラナオ州の州都マラウィ市がIS(イスラム国)などの武装組織に占拠された事件にも深く関与していた。マラウィ市が同年10月にフィリピン軍によって解放された後、アブ・サヤフなどのメンバーはミンダナオ島から脱出。ホロ島やバシラン島のあるスールー諸島で再結集して活動を活発化させていた。

さらに一部のメンバーはルソン島のマニラ首都圏に潜伏したり、海路でインドネシアやマレーシアへ脱出したりしてテロの機会を探っているとみられていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、金融安定監視評議会刷新へ 規制負担軽減で成長促

ワールド

米政府、ベネズエラ産原油輸送船舶のさらなる拿捕も準

ビジネス

日銀には、物価目標実現に向け適切な政策運営期待=城

ワールド

ウクライナ巡り欧州で週末協議、トランプ氏「進展なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 9
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中