最新記事

首脳の成績表

習近平の成績表:毛沢東以来最強の指導者、国家分断の懸念もあるが国内世論の支持は強い

2019年12月27日(金)18時00分
メリンダ・リウ(北京支局長)

HALL MONITOR=風紀委員長 ILLUSTRATION BY ROB ROGERS FOR NEWSWEEK JAPAN

<米中貿易戦争から香港デモまで頭の痛い問題だらけ。強権的な政治手法にさらに磨きがかかる。世界の首脳を査定した本誌「首脳の成績表」特集より>

外から見ると、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は多くの難題を抱えているように映る。

奇跡とも言われた経済成長は、すっかり減速。新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の扱いは、外国メディアに批判されている。香港はもう半年も抗議デモに揺れ続け、外交面ではアメリカとの熾烈な貿易戦争から抜け出せない。

だが習に批判的な諸外国の面々さえ、「習大大(シーターター)」(「習親分」「習おじさん」の意)がその強権的な政治手法によって、非常に大きな存在になったことは認めている。

習は中国で毛沢東以来最強の指導者だ。2013年に国家主席に就任すると、驚くほどの速さと猛烈な勢いで政治的統制を強化し、大方の予想を上回る実績を上げてきた。

習の下で中国政府は、先進技術を活用して国民の監視も強化。インターネットの検閲システムも築き上げた。

温和そうな外見とは裏腹に、「習親分」は国を統制するために激しい闘いを繰り広げてきた。腐敗撲滅の名を借りて多くの政敵を排除し、自分に近いテクノクラートや軍人を要職に就けてきた。

共産党の幹部たちは、愛国的でないと見なした文学作品や教育プログラム、宗教行事の「浄化」を試みている。最近では甘粛省の当局者が「違法」または「不適切」な内容が含まれるという理由で図書館の本を焼却処分した。

習にとってイデオロギー面での大きな目標は、共産主義を支持する重要性を国民生活の多くの側面で復活させることだ。米コロンビア大学のアンドルー・ネーサン教授(中国政治)は「『毛沢東型』統治の最も危険な特徴がいくつも見える。個人独裁主義、イデオロギーの押し付け、恣意的な迫害などだ」と語る。

国家分断を懸念する声も

毛沢東時代の「個人崇拝」の復活を強く感じさせたのは2018年3月、国家主席の任期制限が撤廃されたときだった。これによって、習は自ら望むなら生涯にわたって政権を担えるようになった。

国際社会での習の地位は、米政府の「アメリカ第一主義」によって思わぬタイミングで高まった。ドナルド・トランプの大統領就任後、アメリカは「内向き」になり始めた。そこから生じた国際社会の権力の空白に、中国はうまく滑り込んでいる。6月には、国連食糧農業機関(FAO)の事務局長選挙で初めて中国人が当選した。

今の習は「ミスター・グローバル化」のように見えてきている(アメリカが内向きになったせいもあるが)。そのイメージをさらに強めているのが、かつてのシルクロードとつながりのある広い地域と貿易関係を構築し、利益を生むインフラ契約を取り付けようという巨大な広域経済圏構想「一帯一路」だ。洋の東西を結ぶほどの世界戦略について批判派は、新たな「植民地主義」に基づく貿易網を通じて、地球規模的な覇権を確立することが狙いだと懸念する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け不安定な展開

ワールド

英、パレスチナ国家承認へ トランプ氏の訪英後の今週

ビジネス

NY外為市場=ドル下落後切り返す、FOMC受け荒い

ビジネス

FRB0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用にらみ年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中