最新記事

事件

「英雄」中村哲医師、誰になぜ襲われた? 水利権トラブルに巻き込まれた可能性も

2019年12月12日(木)11時00分
浅野 貴志(ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

両者以外にも、アフガン国内にはイスラム過激派が存在し、それらの犯行である可能性ももちろん排除できない。だが、犯人像が絞り切れない中、浮上しているのが、中村医師が地元の水利権に巻き込まれたという見方だ。「中村医師の事業に不満を感じる勢力がいたようだ」と、あるナンガルハル州政府関係者は打ち明ける。

中村医師の業績の1つが、パキスタンからアフガンを流れるクナル川から用水路を引いて、アフガン東部ガンベリ砂漠を緑化した事業だ。

流水量に不満を持った人も

地元民放トロニュース(電子版)によると、中村医師はクナル川に大小のダムを建設したほか、一帯で1500カ所以上の井戸を掘削。クナル川からガンベリ地域に至る全長約25.5キロの用水路建設を主導した。砂漠はみるみる緑化され、ナンガルハル州の65万人を潤したという。中村医師が現在携わっていたのも、この用水路の第2期工事だ。

前出の州政府関係者によると、中村医師によって地域の緑化が進む一方、一部住民からは川の流れの変化や、川の流水量減少について不満の声が上がったという。ここで留意したいのは、実際に流水量が減ったかは、定かではない点だ。そう感じる人たちがいた、ということだ。

イギリスのBBC放送(ダリー語電子版)は州政府のミヤキル知事の事件後の発言として、「彼(中村医師)の水関連の仕事に理由がある」と報じた。ミヤキル氏は武装グループの詳細については触れていないが、犯人像を示唆する発言だ。イスラム過激派の犯行という見方は示していない。

アフガン東部一帯は内戦状態の継続や、2000年以降深刻化した干ばつの影響で荒廃が進み、水の確保は重要さを増している。もし一帯で「流れが変わった」「水が減った」などと感じる事態が起きていたのならば、それは殺人の動機となりうる。

州政府や警察には「中村医師が襲撃される」との情報が繰り返し寄せられており、中村医師本人にも伝達されていた。最近では事件の約1カ月前にも情報があったという。中村医師は危険情報があるにもかかわらず、信念のもとで灌漑作業を継続し、銃弾に倒れたことになる。

中村医師の遺体は9日に故郷・福岡に到着したが、ガニ大統領が自らひつぎを担いでその死を悼むなど、地域に多大な貢献をしたことに異論はない。「英雄の死」の真相解明が待たれる。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg


現地メディアも中村医師の死を伝えた。 TOLOnews / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 5
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 8
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中